10
「そんな余計な心配はいいよ。僕だってこれなりにいい稼ぎはしている」
影山の言った途端、夜谷の顔が少し暗くなった。
まるで申し訳ないと言うような。
言った本人はそれを横目で見逃さない。
左腕で頬杖を付き、右手でコーヒーの入ったカップに口をつける。
「じゃあ、お作りするってことでいいですね?」
闇野の問いに影山はコーヒーを飲みながら、コクリと頷く。
それを確認した闇野は少々お待ちください、と夜谷に言った。
カウンターの下にある冷蔵庫からスライスされたトマトやきゅうりが入っている二つのタッパーにハムを取り出す。
そして、後ろの棚からお皿を取り出すと、自分の周りに既に置かれてある食パンやマーガリン、マヨネーズ、マスタードを前に出し、調理に取り掛かった。
それを待つ夜谷はちらっと影山を恐る恐る見た。
影山は飲んでいたカップを口から離せば、また煙草に火をつけて、パソコンのキーボードを打ち込み始める。
いつか肺ガンになっても知らないぞ、と夜谷は無言で悪態を吐いたが、それは当の本人には届かない。
実際、やめろ、と言っても効かないのだ。
また、影山はさっきのように苛々するとすぐ火をつける悪い癖もある。
お陰で夜谷は大分煙草に関しては諦めている。
ったく、誰のお陰で生きていられると思ってんだ。
少しは僕に遠慮するとか、謙虚になるとかいうのがないのか、あいつには。
乱暴なキーボードの叩き方に、カタカタという音が響き渡る。
それは影山の苛立っている心理を表しているようだった。
夜谷はそんな影山を見て、影山の心理を読み取ったのか、肩を落とし、カウンターにまた蹲った。
同時に胸の奥に潜む重みが一層増す。
そう言えば、と夜谷はある事が頭に浮かんだ。
何であんな奴の仕事のパートナーになれたんだろうか、と。
夜谷自身あまり考えた事もなかった。
全てが成り行きというものでずるずる流れて今に至る所為で。
あぁ、もうワケがわかんない。
そんな思考を放棄した夜谷の真横でカタッと音がした。
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