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それは独特な、奥ゆかしさ。

「悪いが聞こえているぞ、マスター」

声がした。

さっきの影山である。

銜えていた煙草をズボンに取り付けているポケット灰皿に入れて、こちらをギロリと目を向ける。

「おや、すみませんね。こんな小声でも聞こえてしまいましたか」

「丸聞こえだね、しかも僕をネタにして笑うなんてところが気に入らない」

「影山さん、決してネタにしているつもりはありませんよ」

「そうじゃなくても嫌だね。それに一部マスターは彼女に嘘を教えている。僕は帰る時はいつも代金を払ってちゃんと挨拶して帰っている。無言で帰ってない」

思わず美香は仰天し、マスターを見た。

マスターは少し困ったような顔をして

「バレてしまいましたか」

 と、白状した。

「バレバレだよ、僕が地獄耳な事ぐらいわかっているじゃないか」

 そう言って影山はさらに椅子に凭れ、コードレスのマウスを動かしパソコンを操作する。

「でも、実際たまにあるので強ち嘘ではないと思うのは私だけでしょうか?」

言われたその瞬間、影山は渋い顔をし、目をマスターから逸らした。

そして、深い溜め息が漏れた。

マスターは面白がってまた手で口を覆って笑う。

「コーヒーはまだなのかい?」

話を切り替えようと影山はが言うと

「後ほんの少しだけ、出来るまでのコーヒーの香りを堪能して下さい」

と、マスターはアルコールランプの火を消した。

上昇し、コーヒー粉と混ざって出来たコーヒーが下のフラスコへと戻っていく。

戻り切るとそのフラスコを取り外し、予め用意されていたカップへとコーヒーが注がれていった。

それからカチャカチャと何かの用意を始める。

青い線の入った受け皿に細長いスプーン、白い小さな瓶二つ。

それらをまとめて金縁の木のお盆に乗せられていく。

準備が整うと美香の視点で言えば左、マスターはそこにあるカウンターの押し戸を開けて影山に近づいた。

どうやら用意していたコーヒーは影山のものだったらしい。

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