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木の独特の香りとコーヒーの香ばしい香りがした。
そして、中から
「いらっしゃいませ」
と、穏やかな男性の声がした。
美香は前を見た。
カウンター前の椅子に美香よりやや年上の黒いジャケットを着た男性が緑色の金縁のカップを片手に蹲っているように座っている。
その正面にモノクル、言わば片眼鏡を掛け、きっちりと白いシャツに黒いベスト、黒の蝶ネクタイを締めた店のマスターと思わしき男性がグラスを丁寧に磨いている。
歳は、どうだろうか。
若くも見えるが、もっと上のようにも見える。
そんな二人からやや離れた所にノートパソコンが置かれているテーブルがある。
その近くで椅子に座り、新聞を読んでいる灰色のコートを着た二十代後半と思われる男性が座っていた。
「どうぞ、お好きな場所に座ってください」
マスターが美香に向かって微笑みかける。
美香ははい、と返事をすると黒いジャケットを着た男から二席離れたカウンター前の椅子に腰を下ろした。
ちらっと横を見るとどうやら蹲っている男性は顔を腕で隠して寝ているようだった。
「少々お待ちください」
マスターはそう言い、磨いていたグラスを後ろにある棚に戻すとカウンターの隅にあるメニュー表を美香に渡した。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
美香は渡されたメニュー表を受け取ると目を通す。
エスプレッソと括弧書きされたコーヒーを中心に様々なコーヒーの名前が書かれている。
メジャーなカフェ・オ・レや泡立て牛乳を入れたマキアート、チョコレート風味のモカに蒸留酒入りの少し癖のあるコレット。
カプチーノに至ってはその中でまたココアの粉で味付けをするコン・カカオやキャラメルソースをかけるキャラメル・カプチーノなど様々な種類があった。
しかし、どれがどんな味でどんな風に美味しいのかよくわからない美香はメニューをじっと見つめ、眉を八の字に寄せた。
「迷うのでしたら、私のオススメのコーヒーを淹れましょうか?」
「え? いいんですか?」
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