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何とも言えない苦痛と重み、奥底で渦巻く苛立ち。

そんなものを抱き続けている毎日に早くも会社に行くのに躊躇するようになった。

そもそも自分がもう少ししっかりして、頭の回転が早かったらこんな惨めな思いをせずにすむのに。

思い立ったらもう止まらない。

だんだん、美香の中でそうだったらと嫌な自分に責任転嫁をし始めた。

正直、自分の思い通りにならない自分など嫌いで嫌いで仕方なかったのだ。

虚しい思いが募り、疲れがさらにどっ、と押し寄せて来るように感じた。

その時、ふと立ち止まった。

何か落としたわけでもない、誰かとぶつかったわけでもない。

美香は無意識に立ち止まった。

左の方へ目を向けて見ると、建物と建物の間に出来ている細い路地裏へ続く道。

奥は真っ暗で先が見えず、闇へと引きずり込もうとするような雰囲気を漂わせている。

誰かが手招きをしてくれているような、まるでこっちへおいで、と呼びかけるような。

何だろう、何かある気がする。

そう思うと美香はコツ、と一歩を踏み出した。

またコツコツと少しずつ路地裏へと進んでいく。

建物の様々な導管やゴミ箱が目に入る。

やはり路地裏というのは汚いものだった。

先へ行くと、ぽうっと光るオレンジ色の灯りが見えた。

こんな路地裏に灯りがあるなんて、と、美香は奇妙に思うが、恐怖は無い。

寧ろ好奇心が勝ってどんどんその灯りの方へと美香を連れて行った。

細道を抜けると少し広い小道に出ることが出来た。

その前には『アゲラタム』というティーカップの絵が描かれた看板を持つ木造の店があった。

不思議な感じだった。

それは現実から懸け離れた幻想的な場所にいるような、興奮した感じ。

今時木造の古風的な店があるだろうか。

最近、コンクリートで固められた無機質な建物が多い。

木造でしかもあのオレンジの光を放つガスランプの灯りが出迎えてくれるなんて、なんてロマンチックな店なのだろうか。

美香は何も不安も抱かず、その店の木の扉を引いて中に入ることにした。

カランカラン、とドアの内側に付けられたベルが鳴る。

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