終わらない地獄

「やっと解放されたー」

「俺赤点取らなかったの初めてだよ」


 どうやら二人とも赤点は回避できたらしい。まぁ、勿論俺と明里も赤点なんてない。これでゆっくり冬休みを過ごすことができそうだ。


「やっぱ明里は凄いね。学年一位だよ」

「俺たちに勉強を教えてくれていたのに、学年一位って凄いな」

「そう言う大聖はどうだったんだよ?」

「俺もかなり点数が上がったよ」


 今までは学年で六十位くらいだったが、今回は四十六位まで上がった。こんなにいい点数を取ったのは初めてだ。辛かったけど、頑張った甲斐があったな。


「これからも頼めるか?」

「ん。オッケー」


 優美と翔也が少し複雑そうな表情をしていたが、結果が出ているため言いづらいのか二人で顔を合わせて小さくため息をついていた。

 今度は明里に負担をかけすぎないように俺も優美や翔也の勉強を見るようにしよう。


「冬休みにいっぱい遊ぼうよ」

「またみんなで遊びに行きたいね」


 次遊ぶ時は家に迎えに行こうかな。もうナンパから助けるの疲れたんだよな。


「場所は後から決めるとして、いつ行く?」


 日程が決まっていないと、行く場所を決めても行けないかもしれないから先に日程を決めることにした。


「翔也が部活休みの日に合わせるから予定教えてくれ」

「いいのか?」

「翔也以外みんな暇人だから」

「「「それは大聖だけだよ(だろ)」」」


 三人の声がぴったり重なって聞こえてきた。仲良いなぁ。……ってか、みんな酷くね? 事実だけど、そんなにみんなで言わなくても……。


「あ、でもクリスマスは無しで」

「え?」

「何で?」


 そんなにクリスマスが良かったのだろうか? でもクリスマスは人が多そうだし、もやりたいし。

 クリスマスまで時間があまりないから翔也と早めにいろいろ決めないとな。


「んじゃ、後で送っとく」

「おう」


 今年の冬休みは忙しくなるな。でも嫌な気はしない。むしろ楽しみでしょうがない。今までで一番楽しい長期休暇になりそうだと、胸を踊らせていると、優美がパチンと手を叩いて笑顔でこっちを見てきた。


「何? どした?」

「みんなで初詣に行こうよ。ついでに初日の出も一緒に見よ!」


 えぇ……。俺オールするつもりだったから正月は寝てたいんだけど。

 抵抗するために嫌そうな表情をしようとした時、暗い表情をしている明里が視界に入った。いつもなら優美の味方をしている彼女がこんな表情をするのは珍しい。何かあったのだろうか?


「明里大丈夫か?」

「え? あ、うん……」


 さっきまで楽しそうに話していたのに、初詣の話しになった途端こうなってしまった。初詣がそんなに嫌なのだろうか? それとも正月に予定があるのだろうか? 

 正月、予定……まさか……。


「……親戚に会うのか?」

「……うん」


 今の会話でなんとなく察したのか、優美と翔也の表情も曇った。


にも会うの?」

「……うん。ごめんね雰囲気壊しちゃって」


 彼女は笑顔を貼り付け明るく振る舞おうと努力していた。そんな顔は見たくないし、彼女にこんな顔をさせている原因の奴らに対する怒りが込み上げてきたが、なんとかそれを抑えてある提案をした。


「なぁ、それって俺もついていっちゃ駄目か?」

「え?」

「あの二人に言いたい放題言われたままで気分が悪いし、あんな奴らを好き勝手やらせている明里の親戚にいろいろ言ってやりたいし」


 今言ったことに嘘は一つもない。いくら彼女の親戚といえど、彼女を苦しめるのであれば俺は容赦はしない。


「なら私も行く」

「俺も行く。正月は部活無しだからな」

「みんなありがとう。……でも、流石についてくるのはちょっと」


 彼女に笑顔が戻ったのはいいのだが、やはりそうなるよな……。でも彼女一人だと不安だ。どうしよう。


「なら来てもらうしかないね」

「いや、来てもらうってどうやって?」

「大聖連絡先貰ってたじゃん」


 そうだった。確か写メを撮っておいたはず。

 スマホを出してアプリを開くと、一番上に目当ての写真があった。


「呼び出すのは明日でいいか?」


 電話をかけるなら早い方がいいだろうと、相手の電話番号を打ち込みながら、呼び出す日2お確認した。


「え? お正月じゃないの?」

「それだと明里が冬休みを楽しめないから。できるだけ早く解決したい」


 彼女には冬休みをたくさん楽しんでほしい。それに俺自身正月まで待っていられない。できるだけ早くあの二人にもう彼女に関わらないように言ってやりたい。早く彼女をあの二人から解放したい。

 三度目の呼び出し音の後に『もしもし』という声が聞こえてきた。


「もしもし。明里の友達の大聖です」


 皮肉の一つでも言ってやろうかと思ったが、それだと通話時間が長くなりそうだったので、それは直接会うときに言うことにした。


『君か。用件は?』

「明日明里の家に来てくれませんか? 話があります」

『へぇー』


 馬鹿にしているような声のトーンにイラッとしたが、それを抑えてできるだけ平静えお装って話を続けた。


「あなたの相方もちゃんと連れてきてくださいよ」

『安心してくれ。親戚はあっちなんだから連れていくに決まっている』

「そうですか。ではまた明日」

『あぁ』


 今度こそあいつらをなんとかする。この日は授業中も明日のことを考えていて、授業は全く頭に入らなかった。

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