テスト勉強

「あー。寝みぃ……」

「大丈夫か?」


 昨日帰った後にシャワーを浴びてすぐにベッドに横に入り、気づいたら十七時を回っていた。その後適当に時間を潰して寝ようとしたが、寝れなかった。

 現在は昼休み。昼食を食べた後なのでとてつもない睡魔が襲っている。更に俺と明里がお互いに名前で呼び合うようになったので、クラスメートからの視線がいつもより多いので余計に疲れて眠いのだ。一応明里は大聖君と呼んでるけど、それだけじゃ効果は薄いよね。


「技能教科なら寝れたのに……」

「テスト近いもんな」


 うちの学校はご丁寧なことに冬休み前にもてすとがあり、赤点を取ると短い冬休みが更に短くなってしまうのだ。今のうちに冬休みを満喫しておかないと再来年の今頃は受験で忙しいからな。と言っても、遊ぶ相手なんて片手で数える程しか居ないから基本的に家で過ごすんだけど……。


「あー。聞こえない」

「優美……」


 優美が耳を塞ぎながら現実逃避をしている。言動とは逆に本当に嫌がっているようには見えないので思わず苦笑してしまう。

 俺は別に勉強ができないわけではないので、ちゃんと授業を受けていれば問題ないが、優美と翔也は無理だろう。


「大聖前みたいに勉強教えてよ」

「あー、すまん。翔也と勉強会をするって決まってるから」

「じゃあ一緒にy」

「嫌だ」

「早っ!?」


 優美がオーバー気味にリアクションをした。

 優美も翔也も勉強になると、集中力がすぐに切れて遊び始めるのだ。一人でも大変なのに二人の相手をしながら勉強なんてできるわけがない。……いや、待てよ。俺一人じゃなきゃいいんだ。


「明里も一緒にやるならまぁいいぞ」

「……え? 私? 何で?」


 自分の方に話題を振られると思っていなかったのか返事が返ってくるまでに少しタイムラグがあった。


「見張り役が一人だときついから。あと俺よりも明里の方が教えるの上手そうだし」

「そうかな?」

「イメージだけど、頭いい人って教えるのも上手そうなんだよね。だから居てくれると心強いなって」

「じゃあ、私も参加しようかな?」


 彼女は照れたような笑みを浮かべていた。

 明里は褒められるのに馴れていそうなのだが、そんなことはないのか? それとも馴れないものなのだろうか? あまり褒められたことがないからわからない。


「じゃあ、大聖の家でやろー」

「「おー」」

「おい。勝手に決めるな」


 翔也と優美がこういうことをするのはいつもなのだが、明里もノリノリで拳を突き上げていて少し微笑ましい気持ちになる。

 まぁ俺の抵抗なんて意味がないので、結局俺の家で勉強会をすることになった。なんだか俺の発言権がだんだん無くなっていっている気がする……。

 少し厳しくして仕返ししてやろう。



     ☆   ☆   ☆



「た、だずげで……」


 最初にギブアップしたのは翔也だった。全部濁音が付くくらい辛いらしい。ざまぁ。……と言いたいところだが、正直俺もかなり辛い。

 今回は明里がみんなに教えてくれているのだが、いつも優しい彼女からは想像できないくらい厳しいのだ。間違えたことを責めるとかはしないが、嫌いな教科を休憩無しで一時間以上はやっている。これが辛くない人なんて居ないはずがない。


「明里一回休憩させてくれ……」

「大聖も死にそうになってる……。そんなに辛いの?」


 明里の問いかけに翔也と優美が首をブンブン縦に振っている。明里はその姿を見て苦笑し「しょうがないなー」と言って紙袋の中を漁り始めた。家に来る時に持ってきていた物だが、中に何が入っているのだろう。


「じゃあ、ちょっと休憩しよっか」


 そう言って彼女は紙袋から、箱を取り出した。その箱は近所で有名な洋菓子店のものだった。


「もしかしてケーキ?」

「うん」

「やっぱ頭を使った後は甘いものだよね」


 優美の声のトーンがさっきよりも高くなっている。切り替え早いな……。


「んじゃ、ちょっと待ってて。お茶とってくる」

「うむ。良きに計らえ」

「へいへい」


 優美はちょっとテンションが下がってる方が良いかもな。さっきまで静かだったから余計にそう感じる。






「んー。美味しい」

「ほんとだ。やっぱ有名なだけあるな」


 俺が食べているのはモンブランだ。スポンジはふわふわで、そのスポンジの上にたくさんのクリームが乗っていて食べた瞬間に栗の風味が口いっぱいに広がる。


「食べた分勉強を頑張らないとな」

「う……」

「まぁ……あと一時間くらいだから」


 時計を見たら、時計の針は五時半を指していた。これでは明里と夕方は夜ご飯を作っている時間がないなと、考えていると母さんが部屋に入ってきた。


「今日みんなは何時までやるの?」

「あと一時間くらいだと思います」

「なら夜ご飯食べてく?」


 やはり母さんは頼りになる。お願いする前に察して聞きにきてくれるなんて、親父とは大違いだな。うちの親父は……いややめておこう。親父の愚痴を言い出したら夜が明けてしまう。


「いいんですか?」

「ええ。うちの子の成績が上がるかもしれないんだから、これくらいするわよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、頑張ってね」


 そう言って母さんは部屋から出ていった。


「久しぶりかも」

「まぁ最近引っ越してきたばかりだからな」

「うん。大聖のお母さんの料理美味しいから楽しみだよ」


 優美は幼稚園児や小学生の頃はよく遊びに来ていたから、何回か母さんの料理を食べたことがあるのだ。

 一瞬明里がムスッとした表情をした気がするが気のせいか?


「じゃあ、再会するか」

「そうだね」

「うぅ……」


 その後の勉強もきつかったのだが、何故か優美だけ俺と翔也よりも少し厳しかった。そんなにテストヤバイのかな?

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