優美の気持ち2
投稿ペースが急に落ちてすみません。できるだけ投稿ペースを落とさないように頑張ります。
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今日はいつもとは違うスマホの音で起こされた。電話で森さんがいなくなったらしいということを聞かされた。大聖の息はかなり上がっており、少し聞き取りづらいところもあったが、だいたいわかった。
「わかった。俺も探すよ」
『ありがと』
「何処を探せばいい?」
大聖がまだ見ていない場所を見た方が早く見つけられるだろう。それに大聖が大切な幼馴染みを見落とすわけがない。
『が、学校の、方を頼む』
自分の方が疲れているのに、平坦な道や大通りが多い学校の方を任せるなんて、大聖らしい。思わず苦笑しそうになる。
「了解」と短く返事をし、急いで着替えを済ませた。
事件とかに巻き込まれていないといいけど……。
「見つけた……」
三十分くらい走り回っただろうか。居そうな場所を一つずつ潰していき、ようやく彼女を見つけた。彼女が居たのは数週間前に大聖と吉田さんが出会ったらしい公園だった。……みんなここ好きだね。
吉田さんと大聖にメッセージを送ってから彼女が座っているベンチに向かって歩き始めた。
「三島君……」
少しほっとした表情をしていた。見つけてもらえたことにほっとしているのだろうか。
森さんが目線で「座る?」と問いかけてきたので、俺もベンチに座った。
「俺で良ければ話聞くよ?」
彼女は話すか迷っているようで、十数秒程の沈黙が生まれた。
「私大聖のこと諦めることにした」
「え!?」
森さんは大聖に結構グイグイ行っていたから最後まで諦めないかと思ってたんだけど……。どうしてだ? 疑問が顔に出ていたのか森さんが続きを話し始めた。
「この数日でさ……明里さんが今まで凄く不幸な目に遭ってたっていうことをたくさん知ったから、明里さんには幸せになってほしいなぁって」
「……」
そう言って彼女は笑った。しかし、それは自然なものではなく、無理やり作り何かを隠すように貼り付けた笑顔だった。きっと隠そうとしているのは、自分の本心だろう。
「……それに大聖が私の気持ちに気づいたら、大聖を困らせちゃう」
彼女が作った
「だから俺を見てほっとしていたんだね」
「……うん。私が泣いてるところを見たら、きっと何とかして助けようとしてくれると思う」
彼女は嬉しそうな表情をしていた。しかし、どこか悲しげだった。大聖を諦めるのが辛いからなのか、それとも別の理由なのかは俺にはわからない。
「あの二人はお似合いだし、あの二人が好きだから幸せになってほしい。……だから……私が、あき、らめない……と」
かろうじて貼り付いていた
「……」
いつもなら『大聖は幸せだな』なんて言うのかもしれないが、そんなことを言える雰囲気ではない。
それにどうしてみんな自分のことを犠牲にしようとするのだろう。周りを優先して自分を犠牲にするなんて、本人だけではなく、周りも辛いというのに。あの時の大聖を見ているみたいで、苦しくなる。
「来てくれたのが三島君でよかった。こんなところ大聖には見せられないよ」
「別にいいんじゃないかな?」
「え?」
予想外の返答だったようだ。目を丸くしてこっちを見つめている。
「きっと二人はそれじゃあ喜ばないと思う。森さんだってわかるでしょ?」
「…………」
彼女が痛いところを突かれたと思っているのが伝わってくる。拳は強く握られており、さっきまでよりも落ち着きがない。
「それでもし最初は騙せても、いつかボロが出てバレる。そしたら二人は森さんに負い目を感じる。もしかしたら別れて森さんとくっつこうとするかもしれない」
もしもの未来を想像しているのだろうか。森さんの表情がだんだん暗くなっていく。
それに二人が別れるだけじゃあ済まないかもしれない。関係が壊れてもう仲良くできなくなるかもしれない。そんなの俺だって嫌だ。
「そしたら……結局二人は不幸になる。それは森さんが望んでいるものじゃない」
「っ……」
結局上部だけ取り繕ってもいつか上手くいかなくなる。学校の様に数年程度ならなんとか誤魔化せるかもしれない。でも、きっとこれから何年も付き合っていくのだから、上部だけの付き合いでは無理だろう。
「何で……何でそんなことを言うの? 私何とかして諦めようと……」
さっきまで止まっていた涙が再び彼女の目に浮かんでいた。きっと頭で考えていることと、本当の気持ちが逆だから葛藤し続けているのだろう。まだ決めきれていないのなら止められるかもしれない。
「前にそうやって大聖の言うことに従ったら大聖を独りにさせてしまった。その後に元に戻したけど、もう手遅れだった。……だからもう同じ
思わず握っていた拳に力が入る。
俺がやろうとしているのはただの自己満足かもしれないけど、こんなことじゃ償えないけど……。それでも俺は絶対に見捨てないと決めたんだ。
「私だって大聖を諦めたくないんだよ……。でも明里に応援するって言っちゃったし」
彼女の頬をいくつかの雫が伝っている。それが雨なのか彼女の目から零れ出た涙なのかはわからない。
「それにどうすればいいかわからないの……」
「……じゃあ、俺を助けてよ」
「え?」
もし彼女が誰かの為に行動をしようとするのなら、俺が助けを求めればいいのだろう。
「俺も困ってる。もうあんな目に遭ってる人を見たくないんだ……。だから、俺を助けて……俺の悩みを解決して」
「……」
「大聖を諦めないで」
彼女の大きな瞳はいつもより小さく開かれていて、右へ左へと動いていた。まだ迷っているのだろうか。
他に何か手はないかとしばらく考えていると……。
「決めた。私大聖のこと……諦めない」
彼女は俺を真っ直ぐ見つめて言った。その瞳はとても澄んでいて、彼女が抱えていた迷いがなくなったように感じた。
「でも……あの二人を応援したいっていう気持ちも嘘じゃないの。大聖を諦めたくないのと同じくらい二人を応援したいって思ってるの」
お人好しすぎて思わず苦笑してしまう。
少し伏し目がちに言っているが、俺は彼女に自分の好きなように、自分の本心で動いてほしかったのだから、別に断る気はない。
「わかった。でも、自分の気持ちを押し殺してまで応援しようとはしないで」
「うん。……わかってる」
彼女との会話が一段落着いたところで、一人の男が彼女の名前を叫びながら走ってきた。右手には傘、左手には上着を持っている。
「優美大丈夫か? 怪我してないか?」
大聖は傘を差して森さんに渡し、左手で持っていた黒のウインドブレーカーを羽織らせていた。
「子ども扱いしないで」
そこに居たのはいつもの森さんだった。あの短時間でスイッチを入れ替えたなんて凄いなぁ。
「何かあったのか?」
「うん……。でも、三島君が相談にのってくれたからもうダイジョブ」
「そっか。でもこれからはこんなことする前に相談しろよ」
大聖が彼女の頭を撫でると彼女の頬が緩んだ。大聖は気づいていないみたいだが。こういうデレを見逃すから鈍感なのだろうか?
「翔也もありがと」
「おう」
「んじゃ、帰るか。明里が待ってるよ」
「……うん」
彼女の表情が少し暗くなった。吉田さんに応援すると言ってしまったと言っていたので、気まずいと思っているのだろうか。考えていたことは似ているのか大聖が口を開いた。
「別に明里は怒ってないから安心しろ。むしろ滅茶苦茶心配してたぞ」
「うん。謝らなきゃ」
その謝罪は大聖のことを諦めきれないことへの謝罪なのか、黙って家から出ていったことへの謝罪なのかはわからない。でも不安はだいたい取り除けたみたいだ。
その後森さんを吉田さんの家まで送り、帰った。森さんが家に入った瞬間吉田さんが飛びついていた。その後すぐに大聖と帰ったのであの後のことはわからないが、きっとあの様子なら問題ないだろう。
大聖はどっちを選ぶのか楽しみだな。
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