大聖の怒り
「はぁ……。明日はゆっくりしよ」
「今日は疲れたね」
明里も疲れたらしい。後ろに居る優美は満足そうに笑いながら、スキップしているが……。
朝からナンパされてたり、運動したりで体力がごっそり持っていかれた。明日が休みじゃなければヤバかったかも。まぁ、二人とも下の名前で呼び合っているので、仲良くなれたみたいだし良かったかな。
「ねぇねぇ明里さんの家って何処なの?」
優美が走って俺たちの目の前に来たと思ったら、クルッと半回転して聞いてきた。
「あの角を曲がったらもうすぐだよ」
「ほら、もう見えてるぞ」
明里の家はもうすぐなので、右を見るともう見えているのだ。しかし、やっぱり大きいよな。明里の家は周りの家よりも大きいので、一目でわかる。
「うわぁ……。おっきいね」
「おい、前見ろ。よそ見して走ると危ないぞ」
こういう姿は小さい頃と変わらないので、優美の無邪気なところってずっと失くならないのかな? なんて思ってしまった。
「ねぇ、あれって明里のお母さん?」
「は? そんなわけないだろ」
だって、明里の御両親は事故で……。俺は明里の御両親のことを何も知らないのに、見てもわからないのに、気づいたら走って確認しに行っていた。
優美のところまで来て見てみると、確かに女性が明里の家の前に立っていた。更に、近くに止まっている自動車の運転席に男性が座っている。しかし、ずっと家の前に立っていることから恐らく明里の御両親ではなさそうだ。
隣に居る明里を見てみると脚が少し震えており、顔にも恐怖が表れている。
「知ってる人か?」
「……親戚」
もうこれ以上は聞かない方がいいだろう。明里の様子からして、あまり触れられたくないことだろう。今の状態をずっと見られるのは気分が良くないだろうと思い、視線を明里の親戚に戻した。
もう一度よく見てみると、女性はネックレスや腕時計等のアクセサリーをたくさん身に付けていた。服装の派手さから考えるとバッグはブランド物かもしれない。偏見かもしれないが、金遣いが荒そう……だ。
「……まさか、そういうことか?」
偶然かもしれないが、明里の御両親が亡くなったタイミングで金遣いが荒い人が来る理由はそれ以外に考えられないよな。
「え? 何?」
声に出ていたのだろうか。優美が首を傾げて質問してきた。
「いや、何でもない。……明里の傍に居てあげてくれ」
「……うん」
優美は自分では役に立たないと勘違いしてしまったのか、残念そうに顔を伏せた。
「ごめんな明里の前で言うのはちょっと」
「そっか。わかった」
この言葉でなんとなく察してくれたらしい。
「それに、優美は元気付けるの得意でしょ? だから傍に居てあげて」
「うん。任せて」
優美は嬉しそうに笑った。どうやら誤解は解けたらしい。「あっ……」という明里の声が聞こえ、明里の視線の先を見てみるとあちらもこっちに気づいたようだった。
男性も車を降り、女性と二人でこっちに歩いてきた。
「何か用ですか?」
「えぇ。あなたじゃなくて明里ちゃんに用があるの。だから退いてもらえるかしら?」
女性との距離が近くなり香水の匂いが漂う。香水の匂いは俺の嫌いな甘い匂いだった。化粧も濃く、ドラマで見る金遣いの荒いダメ親のようだった。
「というか、君は誰なんだ?」
男性が口を開いた。恐らく俺に聞いているのだろう。しかしその視線は俺には向けられておらず、俺の後ろに向けられている。後ろで優美がボソッと「キモっ……」と、言っているのが聞こえた。
いや、まさかな……。親戚なんだから、そんなことあるわけがない。
「俺は明里の友達です」
「なら、なんとなくわかるでしょ。あの子を引き取りに来たの」
「明里はそんなことを望んでない」
明里が本当にそれを望んでいるのなら、今頃とっくに親戚の元に行っている
「お前らはただ金が欲しいだけだろ!」
「えぇそうよ。でも明里ちゃんだって独りにならなくて済むんだからいいじゃない」
意外とあっさり認めたので、少し驚いたが、余裕がないと思われると不利になりそうだったので平静を装った。
「そんなことを言って、金を手に入れたら彼女を見捨てるんだろ」
「そんなことないよ。僕がちゃんと可愛がってあげるから」
男が下卑た目で俺の後ろ……明里を見ながら言った。明里が小さく悲鳴を上げて後退りした。親族なのに何を言っているんだ。それに傷ついている彼女にそんなことを言うだなんてあいつらに人の心は無いのか。
「それってどういう意味だよ!!」
奴らに対する怒りを抑えられず気づいたら怒鳴っていた。
「近所迷惑よ。それに今あなたが一番明里ちゃんを傷つけているってわかってる?」
女性が落ち着いた声で言った。しかし明らかに敵意のようなものがこもっていた。
「あなたがやってるのはヒーローごっこよ。それともわざと?」
「……っ」
確かに、怒りに任せて反論していた所為で明里を傷つけてしまうことを言ってしまった気がする。これじゃあ、あいつらと変わらないじゃないか。
「まぁ今日はこの辺にしておこう」
そう言って男性は胸ポケットから紙とペンを出して、何かを書き始めた。
「はい、これ。気が変わったらこの番号に電話をかけて」
どうやら先程書いていたのは連絡先らしい。明里にも渡そうとしていたが、睨み付けたら大人しく引き下がった。
「じゃあいい報告を待っているよ」
そう言って彼らは帰っていった。
車が見えなくなっても暫く沈黙が流れた。とにかく彼女に謝らなければと思ったが、なかなか言い出せなかった。その沈黙を破ったのは、何処かで鳴ったクラクションの音だった。早く言えと言われているような気がし、口を開いた。
「……明里ごめん」
「うん。……じゃあね」
彼女は俯いていて、表情はよく見えなかったが、声のトーンが低かったことから傷つけてしまったことは明らかだ。
「明里さん今日泊まっていっていい?」
「……うん」
優美がこっちを見て頷いた。任せろということだろうか? まぁ、俺より優美の方がこういうのは得意だから任せた方がいいか。
「またね……」
俺は一人で帰った後、部屋に篭り自分を責め続け、気づいたら夜が明けようとしていた。
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