楽しいお出かけー運動編

「お腹減ったし、お昼にしよ」


 優美が大袈裟にお腹をさすりながら言った。集合が十時だったので、もう既に時計の針は十二時を指そうとしていた。


「そうだな」

「それじゃあ、昼飯を食べながら次に何処に行くか決めるか」



      ☆   ☆   ☆



「うっ……。食べすぎた」


 翔也が朝飯を食べていないから腹が減りすぎてヤバいとか言いながら、三品頼んだので時間がかかってしまった。というかよくあの量を食べれるな……。


「翔也君大丈夫?」

「三島君それで今から運動できるの?」


 話し合った結果、これからスポーツをして体を動かすということになった。


「歩いてれば消化されるんじゃね?」


 俺以外みんな運動が得意だから、とりあえず目標は一勝することかな。……勝てるかな?



      ☆   ☆   ☆



「何やる?」

「まぁ。まずはバドミントンで」

「了解」


 運動が得意というわけではないが、リーチは長い方だと思うので、バドミントンならなんとか戦えるかもしれない。

 ウォーミングアップがてらダブルスでやろうということになり、俺と翔也、吉田さんと優美というチームになった。というかウォーミングアップがてら試合ってどうなの? 君たちウォーミングアップの意味知ってる?


「大聖をボコボコにしてやる」

「おい、これダブルスだからな。一対二じゃないんだぞ」

「わかってるって」


 絶対わかってないだろ。笑顔でラケットを俺に向けながら言ってたじゃん。しかも今も体が俺の方を向いているんだよなぁ。まぁ弱い方を狙うのは当然か……。


「翔也大丈夫か? 無理すんなよ」

「あぁ大丈夫」

「ならいいけど……。吐きそうになったら途中でも休めよ」

「おう」


 ここまで三十分くらい歩いて来たとはいえ、三人前の量は消化しきれていないだろう。翔也が復活するまで俺が頑張って粘らないとな。


「いくよー」

「返り討ちにしてやる」


 サーブ権は女子チームに譲った。いくら二人が運動が得意とはいえ、こっちは男子二人だからこれくらいはね。

 どうやらサーブを打つのは吉田さんのようだ。

 吉田さんが打ったサーブは綺麗な放物線を描いてコートの右端ギリギリに来た。流石にギリギリとはいえど、サーブはゆるいので余裕で追い付き打ち返した。その瞬間優美が前に走ってきて、ジャンプしスマッシュを打った。

 勿論コートの後ろで弾き返した後の俺と、食べすぎた翔也が追い付けるわけもなく、俺たちの目の前にシャトルが叩きつけられた。


「嘘だろ……」

「勝てるのか……?」


 俺たちはわずか数秒で戦意を折られそうになった。


「ちょっとタイム」

「早っ!」


 優美が大袈裟に反応していたが、今はそれどころではないので、スルーさせてもらう。ごめんね。


「どうする? 降参する?」

「しねぇよ」

「でも、マジでどうする?」


 まだ試合は始まったばかりなので対策のしようがない。なんとか粘って時間を稼ぎ翔也を復活させるしかないのかな……。

 チラッと向こうを見たが、あっちの二人はタイムアウトなんて要らないのか、素振りをしたりストレッチをしたりしていた。


「とにかく頑張るしかないだろ」

「やっぱそうだよな」





 俺たちはその後も点を取られ続けた。二ゲーム目は最後に一点差まで追い付いたが、結果はストレート負け。しかし翔也はこの試合で復活したようだ。最初と比べて動きが素早くなっている。


「ここからが本番だな」


 翔也はとてもわくわくしているようで、いつもよりも笑顔が輝いていた。お前本当に運動が好きだな。


「俺が先でいいか?」

「珍しいな。大聖が最初にやろうとするなんて」

「お前らの試合の後に俺がやりたくないからだよ」


 あの三人の試合の後に俺がやったら見応えがないだろう。それに、先にやっちゃえば後は休憩できるし。


「いいぞ。でも条件がある」

「条件って?」


 翔也はニヤリと笑って、右手の人差し指を立てた。条件は一つということか? あまり大変なことは条件に出さないでほしいな……。


「俺が大聖の一ゲーム毎の点数を一桁に抑えたら俺の言うことに何でも従ってくれ。勿論大聖が俺から十点以上取ったら大聖の言うことを何でも聞いてやる」

「まぁ……それならいいけど」


 翔也なら『あれを買って』とか『誰かに告白してきて』とかそういうことは、言わないと信じているので、それくらいなら構わない。しかし、いくらなんでも翔也が不利すぎる。

 翔也に本当にいいのか聞いてみようと翔也の方を見たら、翔也は余裕の笑みを浮かべていた。余程自信があるらしい。


「絶対二桁取る」

「もう勝つのは諦めてるんだ……」


 吉田さんが苦笑いでこちらを見て言った。

 しょうがなくない? 俺が翔也に勝てるわけがない。俺は点数を二桁取れば、勝負には勝てるんだからな。


「大聖約束は守れよ」

「あぁ」





「う、嘘……だろ……」

「でも惜しかったな」


 ……負けた。試合だけではなく勝負にも負けてしまった。一ゲーム目は六点、二ゲーム目は八点しか取れなかった。まぁ、終わってしまったことは仕方がない。とりあえず約束を守らないとな。


「で、お願いって何だ」

「あぁ、それは、今と同じ条件で二人と試合をやることだ」

「……は?」


 予想外のことを言われたので理解するまでに少し時間がかかった。優美と吉田さんも驚いているようだった。

 翔也は満足そうに笑っていたが、俺は納得いかない。


「それは……無理だ」

「は?」

「まぁ待て。落ち着け。最初からさっきの条件で二人と試合をするつもりだった。だからそれは翔也のお願いとは認めない」


 本当はいつもお世話になっている翔也に恩返しするためだが。翔也の本当のお願いを叶えなければ、お礼にはならないからな。


「はぁ……」


 翔也に呆れたという視線を向けられながら、ため息をつかれた。俺呆れられるようなことを言った覚えはないんだが……。


「お前ってほんとにいい奴だよな」

「そうか?」

「じゃあ、お願いはまた今度でいいか?」

「ああ」

「やっと私たちの番だー」


 ずっと待っていて暇だったのだろう。俺たちの会話が終わるとすぐにラケットを持って、コートに入った。


「早く勝負しようよ」

「わかったわかった」






「ですよね……」


 勿論二人にもストレート負け。しかも、なんか二人ともさっきの試合よりも強くなっていた気がした。運動して体が温まったからなのか、お願いを聞かせられるからなのかどっちかわからないけど……。


「じゃあ、優美のお願いは?」

「えっと……今度二人で遊ぶこと」


 珍しく、優美が少し恥ずかしがって、顔を朱くしていた。


「わかった。まぁ日程とかは好きにしていいぞ。……で、吉田さんは?」

「私も下の名前で呼んでほしいな」

「それがお願い?」

「うん。みんな下の名前で呼んでるのに、私だけ名字だから」

「わかったこれからは下の名前で呼ぶよ」


 吉田さんが嬉しそうに笑った。俺がOKした時の彼女の笑顔は今までで一番無邪気で可愛らしく、こんな表情もするんだなと思った。

 意外な一面を見られたことが嬉しくて、もっとその表情をみるために、吉d……明里さんのことを暫く見ていたら俺と目が合った途端、顔を朱に染めて顔を逸らされた。……慣れないな。


「明里さんどうしたの?」

「……のいじわる」


 ……ん? 今何て言った? 俺の聞き間違いじゃなければ、今『大聖』って言ったよな……。いつもは『大聖君』だったのに。

 それとこっちをチラチラ見ながら、小声でボソッと言っている明里さん可愛かった。その時、拗ねたような表情をしていたが、少し嬉しそうにしていた気がした。


「何ではそんなに顔を赤くしているの?」

「……っ」


 さっきの仕返しで俺も『さん』を付けずに呼んでみたら、トマトのように顔が真っ赤になり、耳まで朱に染まっていた。そんなに顔が赤くなっていることを指摘されたのが恥ずかしかったのだろうか? 流石に俺も恥ずかしく、自分の頬が熱くなるのを感じた。


「……大聖のバカ」

「痛っ」


 何故か拗ねている優美に背中を叩かれた。手加減はしてくれていたようで、本当は痛くなかったが反射的に痛いと言ってしまった。


「仲がいいのはわかるけど、あんまりイチャイチャしすぎるのは……」

「は!?」


 翔也は苦笑を浮かべ、優美は拗ねた表情をし、明里は少し涙目だった。そしてバドミントンのコートの近くを通ったおばさん達が、微笑みながら「やだぁ」とか「青春ってやつだねぇ」とか言っていた。


 運動よりもこっちの方が疲れた気がする……。

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