楽しいお出かけ?

「今日楽しみだね」


 今日は例の一緒に遊ぶ日である。家で遊ぶのかと思っていたが、外に出て買い物をするらしい。

 遊ぶのはいいのだが、外で吉田さんや優美と遊ぶとなると、ナンパが多そうなのが不安だ。


「うん……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 吉田さんは「なら、いいけど……」と言い、少し不満がありそうだったが、それ以上は追及してこなかった。





「着いたね。ちょっと早いけど二人は居るかな?」

「あそこに人が集まってるけど、あれは……優美じゃないね」

「現実から目を逸らさないで。どう見てもあれは森さんだよ」


 ですよね……。

 俺がさっきフラグを立てたからか? 俺が悪いのか? なんでこの世界の男共はすぐにナンパをするんだ……。


「吉田さんも……付いてきて。あっちを助けてる間に吉田さんがナンパされたら大変だから」

「ごめんね。迷惑ばっかりかけちゃって」

「大丈夫。俺のミスだから」


 心配するくらいなら、最初から一緒に行けばよかったのだ。そこまで考えなかった自分が悪い。


「でもどうしようか……」


 この前は大通りとはいえ、歩行者があまりいなかったため、俺たちだけに聞こえる音量にすることであの手が使えた。しかし今日は土曜日。しかも現在地は駅の目の前。この前と同じ手は使えない。


「こ、恋人のふりをすればいいんじゃない?」

「でも……嫌でしょ?」


 吉田さんの顔はほんのり朱く染まっており、いつもより早口だった。そんなに恥ずかしいことなのだろう。流石にそこまでしてもらうつもりはない。


「嫌じゃない。別に大聖君ならいいよ。だから早く行こ」

「あ、うん」


 後で感謝しなきゃな。


「優美お待たせ」


 俺が声をかけると、優美は安堵の表情を浮かべた。ちょっと安心するの早くね? 俺まだ声かけただけなんだけど……。


「誰だお前?」

「まさかお前がこのの彼氏か?」


 ナンパしているやつらの一人が俺をバカにした目をして言った。やっぱこの設定無理があるよな……。


「んなわけねぇだろ。あいつじゃどう考えても釣り合ってねぇし」

「それより、あのも可愛くね?」

「君も俺たちと遊ぼうよ」


 どうやら俺は眼中にないらしい。吉田さんが何か言い返そうとしていたが、笑顔で彼女を見たら、引き下がってくれた。


「俺の彼女を返してくれないかな?」

「は? お前の彼女なわけないだろ」


 最初は優美も驚いていたが、すぐに笑顔でウインクしてきた。あざとい……。しかし俺たちの作戦はちゃんと伝わっているらしい。これは勝ったな。


「私の彼氏ですけど、何か文句でも?」

「ふーん。まぁいいや」

「なら、そっちはフリーってことだよな」


 そう言って彼らは標的を優美から吉田さんに変えた。その間に、優美は俺たちのところに走ってきた。お前最初から走って逃げればよかったんじゃ……。と思ったが、怖い思いをしているんだからそこまで頭が回らなくても仕方がないか。


「いや、こっちも俺の彼女です」

「ふざけてんのか?」


 ですよねー。こんなふざけたことを言って、信じる人が居るわけないよな。

 というかそれよりも怖っ。男たちの眉間にシワが寄ってる。そんなに怒るなよ……。しかもさっきから男たちが大声で喋るから、周囲からの視線が凄い。ただでさえこの二人は美少女だから目立つのに……。


「吉田さん二人で大聖に抱きつこっか」


 ……は? 今何て言ったコイツ。俺の聞き間違いだよな? なんか優美が悪い笑みを浮かべてるんだが。

 吉田さんは恥ずかしそうに頷いていた。耳まで朱くなっている。誰か聞き間違いだと言ってくれ。


「私たち」

「この人の」

「「彼女です」」


 そして、彼女たちが俺の腕に抱きついてきた。俺の両腕に柔らかいものが当たってる。いくらなんでも大胆すぎない? 俺も男子なんだけど……。嬉しいような、嬉しくないような。


「二股野郎のどこがいいんだよ」

「あんなクズと付き合ってるとか見る目なさすぎでしょ」

「おい。謝れよ」


 もう我慢できなかった。俺の容姿をバカにされるのは別にいい。本当のことだからな。でも、彼女たちのことを悪く言うのは、許せなかった。


「あ?」

「彼女たちに謝れよ」

「本当のことを言っただけだろ」

「正しいことを言ったら謝らなきゃいけないのか?」


 小学生かよ。俺は生意気な小学生は嫌いだから、お前らも嫌いだわ。それよりこいつら人を怒らせる天才か? ムカつくことしか言わねぇな。


「もういいよ大聖」

「私たちのことはいいから」

「でも……」

「うるせぇなこのガキ」


 男が近づいてきて、拳を振り上げた。殴られる……そう思ったとき。


「うわダッサ。ムカついたからってすぐに暴力振るうとかないわ」


 野次馬の中から翔也の声が聞こえてきた。翔也の言葉で男の手が止まった。助かった……。


「あの人たちヤバッ」

「警察呼んだ方がいいかな?」

「SNSに上げようぜ」


おい。最後の奴それは駄目だろ。しかし周りに居る人たちが流されやすい人でよかった。


「チッ」

「行くぞ」


 男たちは舌打ちをして去っていった。


「大丈夫か?」

「あぁ、助かった。ありがと」

「いや、遅れて悪かった。俺がもう少し早く来ればよかったな」

「まぁ怪我とかしてないし、結果オーライってことで」

「そうだな」


 翔也のおかげで、俺も怪我をしないで済んだからな。しかしなんか凄く疲れたな。明日も休みでよかった。


「じゃあ行こっか」

「そうだな」


 うわ……。そうじゃん。まだ今からお出かけが始まるんだった。これ以上何も起きませんように。

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