2 国家を定義するという無理ゲー(2)
ミサ〉 そうなるとだ、いよいよ国家ってなんだろうな? って話になってくるな。
次に国家の要件二つ目、国民についての話をしようか。
たとえ領土があっても、そこに誰も住んでなかったらただの空白地、国家がある、と言えないのはもちろんとして、ただ単に人が住んでりゃいいってわけでもない。その人たちがちゃんと国に所属してるって意識をもってないと。
たとえば3年A組があり、生徒がいたとしても、今日はB組で着席し、明日はC組へ行ってしまう、なんてことであれば、物理的にA組という箱があるだけであって、実体がともなってないし、そんなふうではクラスが成立してるとは言えない。
同様にして国家の場合はというと、住んでる人たちが「オレたちこの国の人だよね」って、国民になってないといけないわけだ、たしかに。それが要件二つ目の意味だろうよ。
で、ここで質問だが、国民ってなんだと思う? あるいは日本人、日本国民とはなんだと思う?
我聞〉 日本の国籍をもってる人、でしょう。
ミサ〉 そうくるか。じゃ、その日本国籍というのは、いつから制度として成立してる? たとえば大昔に国籍なんてあった?
我聞〉 それは・・・・・・
ミサ〉 つまり、我らは歴史上のどこかで日本国籍をもつ日本人になってるんだよ。
結論を先取りするとだ、現代の我らが国民と聞いてイメージするようなものはさ、一般的には近代以降の産物だとされている。あらかじめ国民なるものが存在してたわけじゃない。遅れてどこかで国民になったんだよ。
我聞〉 なんかソレ、「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」とかいうのと似てますね?
ミサ〉 ボーヴォワール(1908-1986)か。よく知ってるな。
我聞〉 いいえ、別れた彼女が言ってたセリフなんです。思い出しました・・・・・・
ミサ〉 ン? どうした?
我聞〉 ・・・・・・
ミサ〉 えぇい、そっちのほうへいって鬱になるなよ。
話を戻すぞ。そのな、下々が国民になっていく、あるいは上から国民をつくっていく、と言ってもよいのだろうが、それを比較文化論がご専門の西川長夫さん(1934-2013)がな、「国民化」という用語で語っているぞ
西川さんは国民化の諸相を網羅的に、①空間の国民化(国境ほか)、②時間の国民化(暦ほか)、③習俗の国民化(儀礼ほか)、身体の国民化(学校ほか)、言語と思考の国民化(国語ほか)、と分類しているが、まぁ詳しい話はやめておく。
ちなみに、この類の議論になるとな、必ずといってよいほど名前がでてくる本がある。ベネディクト・アンダーソン(1936-2015)『想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』(白石隆・白石さや訳、書籍工房早山、2007)だ。そこで言われていることはだ、①アフター宗教改革16世紀頃からの「出版資本主義」がな、いわばグローバルな知的エリート語であったラテン語に代えてそれぞれご当地の言葉をな、「出版語」として用いるようになり、②結果、その「出版語」がみんなに共有されていくことで言語共同体的な「民衆ナショナリズム」が生まれていく、③さらにそれを今度は上から政府が「公定ナショナリズム」として対抗的に包摂していくという運動が展開していった、ということだろう。要するに「出版語」の国語化だ。日本人とは日本語を話す人のことだ、とかいう人もいるが、その日本語なるものもまた大昔からあったわけではなく、生れてきたものなんだよ。ちなみに方言は、国語が成立した後ではじめて方言となる。
話を戻すが、国家の要件として国民を挙げるとすなら、国民化により「国民」なるものが誕生する以前のこと、昔のことを語りにくくなるぞ、ってことを我は言いたいわけ。たとえば奈良時代の日本に、国民がいたわけじゃないんだからさ。
我聞〉 そんな細かいことまで言いはじめたら、きりがないでしょ。とりあえず国土に人が住んでたらいいンじゃないですか?
ミサ〉 ぽかタレ。さっき言ったろ。
たとえばXという領土があり、人が定住してたとしても、オレたちAチーム、Bチーム、Cチームって勝手に分断しててさ、誰もXに帰属してるって思っておらずにバラバラだったとしたら、それ、X国だと言える?
我聞〉 まぁたしかに・・・・・・
(註)
1 西川長夫『国民国家論の射程 あるいは〈国民〉という怪物について[増補版]』柏書房、2012
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