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蛇達が肌の上を這うだけで反応し固く尖っていく。

 完全に拘束された状態では意識を他に逸らせず、血が集まる箇所の感度が嫌が上にも増してしまう。


 首から肩、胸に向かって絡み付く二匹の蛇が肌を交互に舐め上げ、別の二匹の蛇が閉じる事を赦されない腿の付け根に絡み付く。

 更にもう一匹がちろちろと舌を伸ばし、敏感な先端に触れる度に乱法師の頬が紅潮し眉根が切なげに寄せられた。


 自分を案じてくれる者達の顔が頭に浮かぶ。


『三郎……』


 金山にいる家族は無論大事だが、今一番力になってくれているのは間違いなく三郎だった。

 目尻から止めどなく涙が零れ落ちる。


 果心の興奮と欲望に連動した蛇が、乱法師を絶頂に追い込んだ。

 快感が突き上げ、小さな汗の粒が浮かぶ艶めいた胸と脚が細かく痙攣する。


 目の前が真っ白になった瞬間、信長の笑顔が脳裏に浮かんだ。


『上様──』


 意識朦朧として脱力し掛けた時、蛇達がいきなり強く締め上げ始め、今度は苦痛で歯を食い縛る。


『信長の事を思ったな!全てお見通しなのじゃ!今までのは、ほんの小手調べよ。時間を掛けて、どれくらい男を知っているか身体に聞いてやるから覚悟致せ! 』


 その言葉を合図に足首に絡み付いていた蛇が、両足を胸に付くよう屈曲させた。

 腰から腿の裏側を一周し、その姿勢で縛ってしまう。


 邪な狙いが余りにも剥き出しの態勢であった。


 乱法師がずっと怯えていたのは言うまでも無いが、恐怖を忘れ全身が桜色に染まる。

 生々しく伝わる少年の羞恥に、人とは異なる形状の二本の男根が、めきめきと音を立てんばかりに膨れ上がった。


 恐怖も極限に達すると、見なければ良いのに、つい見てしまうものだ。

 湯殿の時には湯気で判然としなかったが、男根には無数の刺が生えていた。


 桜色から蒼白に、一気に肌の色が変化する。

 恥ずかしがっている場合では無かった。


『ふうむ。男を受け入れた事があるようには見えぬのう。実に可愛いらしい……まだ信長に全ては汚されていなかったのか?くく、良いぞ!良いぞ!信長よりも先にそなたの秘奥を味わえるとはな……』


 男色行為の手順書二冊に目を通せば、いい加減意味も分かろうというものだ。

 身体が反射的に抵抗を試みる。

 邪な欲望の中身をいっそ知らぬ方が良かったのかも知れない。


 胸の方から移動した蛇が、固定された腿の間に鎌首を滑り込ませる。

 露にされた白い双丘の間に向かって舌が伸びた。

 触れた瞬間、乱法師の身体が嫌悪と快感でびくっと震える。


 生まれて初めての体験は強烈な記憶として残る。

 楽しかった事も辛かった事も。

 初めての性体験の記憶は特に──


 信長によって官能の扉が開かれ、秘奥まで解され全身を愛でられた時の記憶が甦った。

 それは恐怖と羞恥を伴いながら、ほのかに甘酸っぱい余韻を残した言い表し難い記憶であった。


 彼は果心に嬲られる事で、信長との違いを本能で理解した。

 同じ行為でも、心底不快と思う時とそうでは無い時がある事を。


 彼の意識と記憶が果心に流れ込んだ。


『ぐぐぅおのれぇーーおのれえーーまたもや、たばかったな!信長めぇーー何て手の早い男だぁ!くぅぅそおーー』


 支配欲の強い果心は、初物である事に異常なまでの拘りがあった。


 せっかく極上の初物を手に入れたと喜んで箸でひっくり返したら、既に食い掛けと知ってしまった時の怒りと言えば分かりやすいだろうか。

 食い物の恨みは恐ろしいと良く言うが、果心の場合は怒りが食い物そのものに向けられた。


 悔しいが気付いていた。

 信長がとてつもない強敵で、己の邪心を寄せ付け無い事を。


 無論、乱法師個人に対する執着もあったが、本人を攻撃出来ない故に、その愛する者を苦しめ奪ってやろうという歪んだ考えに取り憑かれてもいたのだ。


『ぬうぅ折角優しく愛でてやろうと思っていたのに。所詮そなたも顔が美しいだけの淫乱か!簡単に男に全てを許すとは。どこまで性根が腐っておるのじゃ! 』


 幼気いたいけな少年の寝所に忍び込み縛り上げ、犯そうとしている事は棚に上げて罵倒する。


『一晩中可愛がって骨までしゃぶってくれるわ。ぐぐ』


 淫靡な欲望と残酷な攻撃性が結び付くのは良くある事だ。

 特に果心の場合は常に二つが連動していた。


 蛇は鎌首をもたげ、乱法師の双丘の狭間に頭を強く押し付けた。

 抵抗を無視し、ぬらぬらとした蛇の頭が力付くで犯そうとぐいぐいと攻める。


『誰か……うう……』


 最早限界だった。


『若……どうしたんだい?……若!しっかりおしよ!若……』


 その時、聞き覚えのある女の声がした。


『射干……射干か……どおして? 』


 途端に力が抜け意識が薄らいでいく。


『ぐぐ生臭い……臭いいぃ堪らぬ。臭い女めぇ女めぇーー良いところで邪魔しおってぇ』


 意識を失う直前、憎々しげに罵る果心の声が遠く微かに響いた。

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