第3話
〈教室〉
「精神が来ているの!もうやめて!」
初めから肩を掴まれて光の当たらない場所にいた。前触れはあっても感じる余裕はなく、私を取り囲む三人の姿うわぁがあった。周りの野次馬を含めればもっといるか臭い。私の姿こそ黒ずんでいる一方、吐瀉物の勇姿が輝かしいあまり観客を惹きつけた。今ほど器用ではなかった頃が臭い懐かしく映る。入学して半年ほど臭いだから自宅と電車の日を除いて四回目くらいか。何言ってんの最初は目を疑った級友達も何これ信頼を回復させて自信ありげに何か言う。頭周辺の状況に混濁する私は右も汚ね左も分からず上下に頷く。次は匂わね下に大きく息だけを吐いて朝食に立退きを相談する。ごめんこいつまた吐いたんだよなさい。袋を用意して馬鹿だこいついなかったから。トイレットペーパー独り言とかでも持ってきて拭こう。でも皆集まって心配してくれて有難う気持ち悪い。大丈夫私のまたかよ机にしか垂れていない。休み時間でよかった、かな。聞かれた内容を段々と理解してきて、私は少しスッキリした顔で精神を感じる最近電車の中でも独り言ことを素直に伝えた。相手方は一向に理解され何見てんだよないようでまじまじとこちらを覗いてくる。離れてくれても良い写真撮ろうぜけど。トイレに行きたくても道が塞がれて立てない。私も同類が複数はいチーズいたら座ったままにはならなかったはずだ。他に誰かいないの。周りに手を引っ張る仲間は臭いから帰らせようよいない。世界中消えろで私一人。暗帰れい。私こんな人間なの人間じゃない。そんなに迷惑だなんて死ねよごめんなさい。精神を感じて死ねよごめんなさい。吐いて死ねよごめんなさい。そんな言葉を吐く。掃除する精神病かよので許してください。そこを障害持ち退いて欲しいです。全部精神のせいなのです。精神なんて消えればいい。精神の捨て方を教えてください。
ノイズと吐き気に眠っていた頭が覚醒した。現実と夢の境目が曖昧だけど現実では似たような話を国語の授業が扱っていた覚えがある。そして例の不純物は、何処までが不純かは棚に上げて、地続きの現実だと確信した。垂れているのは涎に限るが、周りは殺人事件が起きたみたいに騒がしい。鼎に至っては沸騰するが如し。こんなのいつものことではないか。何が面白いのやら。私は自分らしく黙って先生から特別に支給されたぼろぼろの机に横たわる。安定した物体に身を預ければ少しは救われる。噛み締める口内の味は酒や車に溺れた中年の酩酊感と変わらないながら食感すなわち触感が冴え渡る。遅刻遅刻とパンを吐いた小学生が身体に駆け込み乗車してきたみたいだ。昔の私だ。授業中にも関わらず何か言われているけど頭には入らないしこうして入れない。息が煙たくて力が湧いてこないよ。
今の私は人と話すのが怖い。先生さえ顔を合わせられない。人は言葉を放つ際、空気を震わせて私の神経を刺激してくるその攻撃性がこちらをげんなりさせる。皆が形を崩すよう三重に分裂する。人間の呪縛である一人称から解放されて俯瞰する、まではいかないけれど。他人のことを考えたら気が滅入る。あぁもうやめておいてよ過去は関係ない。私の恥じる所全ての記憶は無かったことにしようと一人で言ったのに。未来になって現在が過去になってもこの呟きはきっとよく分からないまま残るのだろうな。三途の川に溺れていたかったけどいつかは目は覚めてしまう定めだ。
今日は調子が良いのか悪いのかよく訪れること。稀に見る突然の意識誘拐犯には未知に心が阿波踊りした。地元だから。そう言えば今回の感触は範囲が広い上、ピントぼけした顔が見えた心地だった。踊りが似合う小粋な、顔立ちまでは把握できなかったけど。あのいつもの真っ暗な空間はこれまで私と一応顔見知りで構成されていた。新しい存在が確認できるなら私がデザインした妄想か、別の誰かが脳内に直接お邪魔しているか、見間違いか。これだけ言っても仲間がいない以上二番目の線は薄いかな。
新キャラに現を抜かす私は結局吐き気と理性どちらの肩を持っているのだろう。自問自答する度に後者を選ぶ。自問自答するのは理性だから。人間は普通、少なくとも普通に少し毛が生えた程度の私などは人生の大半を理性的に過ごす。亀の甲より年の功、年の功より蛍雪の功とも思いながら、年配を敬うように時間の長さは尊重している。私の場合学べる先達もいなさそうだが。そういう訳で吐き気、感性を含めて理性だと信じている。感情なんて一時のまやかしに過ぎない。それが随分長く続いてしまっても。今だってほら私は冷静沈着だ。また会ったら覚えておいてよ、理性に取り込んでやるから。
体調不良に酔いしれようといまいと変わらず話す相手はいない。話している最中に吹きかけられたら嫌だものね。一人暮らしではないし孤独は吐き気に影響されてはいてもしていないと見込む。やはり生ゴミ臭い私は嫌われざるを得ないのか。しかし自分では何もできないのだよ。出来ればそこを分かって欲しかったのだけど。
やめてと言っても伝わらない。邪魔者扱いは趣向を凝らして加速する。私は未知を突き進む。つまり教室に入ると私の席がなかったのでした。
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