三月三十日 シチリアの晩祷事件が起こった日
歴史の教科書でもサラッと習ったはずだが、正直内容はふんわりとしか覚えていない——っていうか、何だっけ、それ? という代表格その二「シチリアの
実は、マフィアの語源が生まれた事件だったりもする。
時を遡り、中世ヨーロッパ。
イタリア南部シチリア島北西部に位置する町パレルモにて、公安五年(一二八二年)三月三十日、月曜日の夕刻。
イースターの翌日というタイミングで起こったフランス兵士によるパレルモ婦女暴行事件がきっかけで住民が暴徒と化した。
パレルモ女性に手を出したフランス兵をシチリア側の男性が勢いで刺し殺してしまった、とされているが、この時夕べの祈り(晩祷)を知らせる鐘が町中に鳴り響いたことで、パレルモ中が一斉蜂起しフランス兵及びフランス系住民を片っ端から虐殺して回る暴動に発展した——それを後世「シチリアの晩祷事件」と呼んでいる。
なぜ、パレルモひいてはシチリア全土がここまで荒れたのか。
当時シチリアを支配していたのはフランス王家カペー系列のアンジュー家、シャルル・ダンジュー……とりあえず野心家で世俗の支配欲の塊みたいな面倒臭い男である(筆者の主観)
元々シチリアを支配していた神聖ローマ帝国(ドイツ)系列の後継者を教会権力と組んでフルボッコして周り、最終的にシチリア王を継承していたホーエンシュタウフェン家を断絶(討伐、暗殺、処刑、獄中死等々)させて乗っ取った平たくいうとヤカラである(ついでに、お兄はフランス王ルイ九世)。
事件が起こった時期、シャルルは東ローマ帝国の首都(コンスタンティノーブル=現在のトルコ、イスタンブール)陥落を目論んで遠征計画を進行中だった。
背後には西側教会権力(ローマ・カトリック)がゴリゴリ後押しをしていたという実態があるのだが、その絶対的な後ろ盾(権力)にものを言わせてシャルルは遠征費用諸々を捻出するため、シチリア全土に対して重税と食糧の搾取、及びそれらを可能にする圧政を強いていた。
そのことに対するフランスへの反感はシチリア全体に浸透していて、暴徒化する前の島民はローマ教皇へ改善要求の嘆願をしたりもしていたのだが、何せお上と教会権力がズブズブだったため、島民の要求が通ることはなかった。
あまつさえ、「お前ら、うっせぇうっせぇうっせぇわ」と逆に島民全体に破門宣告を下す横暴ぶりである。
そこに加えて、俺様何様シャルル様が島民に対して武力制圧に乗り出した。
頼る先のないシチリアの島民は暴徒化するとともに、シチリア王と教会権力以外の権力者を頼るしかなかった。
その頼り先がスペイン、アラゴン王ペドロ三世だった。
シャルルが討伐した前シチリア王(マンフリート)の娘婿がリベンジ遠征に乗り出してきた格好である。
そして逆ボッコを食らったシャルルはシチリアをぶん取り返されてしまい、以後南イタリアは一五〇〇年代に入るまでシチリア王国、ナポリ王国に二分されることになる。
元々神聖ローマ帝国と折り合いの悪かったローマ教皇サイドなのだが、シチリア王を継承したホーエンシュタウフェン家を二百年ほど遡ると、ハインリッヒ四世に行き着く——そう、カノッサの屈辱で教会権力とバッチバチにやり合ったあの人の娘の嫁ぎ先がシチリア王だったというわけだ。
それを打倒したくてローマ・カトリックは度々、フランス王ルイ九世に「シチリア攻めへん? なあ、攻めへん?」と打診し、「え、ヨーロッパ荒れるやん、まじ勘弁」と断られ、ならばとイギリス王ヘンリー三世の次男に話を持ちかけるも、優秀家臣たちが「アホ言うな」と反対して頓挫し、もっかいフランスに畳み掛けてゴリ押しを通した結果、野心家の末弟が「オレオレ、オレやるで!」と乗ってきた……みたいな流れだ。
西側教会権力の腹黒采配(政権転覆)に巻き込まれた住民がブチ切れた結果、その他大勢のフランス人がボッコボコにやられた上、スペインが乗り出してきて泥沼戦線を繰り広げた発端——それが「シチリアの晩祷事件」である。
(もっとも、シチリアの反フランス感情を密かに煽り散らかして扇動工作を仕掛けていた裏黒幕は、東ローマ帝国だったとする説もある)
この暴動の時、シチリア島民が合言葉のように口にした文言があるそうだ。
それが「Morte alla Francia Italia anela(全てのフランス人に死を、イタリアの叫びだ)」というのだが、単語の頭文字を抜き出して出来た言葉が「MAFIA」であるとされている。
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