三月十一日 東日本大震災

 平成二十三年(二〇一一年)三月十一日十四時四十六分頃、東北地方の沿岸、三陸沖、宮城県牡鹿半島東南東一三〇キロメートル付近で発生した地震は、震源の深さおよそ二四キロメートル、マグニチュード九・〇を記録した日本国内では観測開始以降、史上最大規模の地震災害である。

 震源も比較的浅かったことから、反動で誘発された津波被害の凄惨さは記憶に新しい。

 つい先日のことのようだが、早いもので今年で十一年目を迎えた。


 観測場所にもよったが、押し寄せた津波の最大値は四十メートルを超えたという。沿岸部は壊滅的な被害を受けたし、河川やダムの決壊、地盤沈下によるライフラインと交通インフラの寸断は深刻を極めた。


 内閣府の発表している防災情報によると、死者およそ一万五千人、行方不明者七千五百人、負傷者五千四百人、地震から三ヶ月経った時点での避難者は十二万人を超えていた。

 そしてこの数字は、年々関連死として増えていくと思うと本当に痛ましい状況だ。

 二〇二二年時点でも尚、一千人を超える人々が行方不明のままだ。

 復興作業と共に、現在も地元警察や消防関係者によって捜索活動は地道に続けられている。


 関東大震災では火災による死者が最も多かったとされているし、同じ平成の世で起こった阪神淡路大震災では倒壊した家屋の下敷きになった圧死が最も深刻だった。

 そして東日本大震災で最も多くの人命を奪った原因が溺死だったと言われているが、どれだけ防災対策を施そうと自然の脅威は本当に容赦がないと痛感させられる。

 話して分かる相手でもなし、ちょっと待ってと聞いてくれるわけでもなし、正確な予告をくれるわけでもない。

 そして時と場合で二次被害、三次被害の方が余程重大な事態となることを否応にも突きつけられた震災でもあった——原発事故は本来なら地震被害とは直接関係のない事案のはずだが、自然の脅威の前ではどんな言い訳も通用しないということが改めて浮き彫りになった。


 アメリカのNASAジェット推進研究所の観測によると、この地震で地球の地軸が東経一三三度の方向に、およそ十七センチ程ブレたという。

 もっとも、地球は常に激しい気候変動(風や海流の影響など)を受けており、年間では一メートルほどブレまくっているそうなので、微々たる変化と言われたらそれまでなのだが、一度の地震が地球の軸に影響するエネルギーの大きさを改めて知る機会でもあったということになる。


 そして現在、地震大国日本で最も懸念されているのが、東海、東南海、南海地方それぞれが抱える時限爆弾のような次なる巨大地震である。

 直近で大きく揺れた東北でさえ、前回の「割れ残り」がまだ力を溜めている可能性が示唆されている。


 また、直下型地震で最も警戒しなければならない首都圏では、巨大地震が誘発される前兆と捉えられている「静音期間(大きな地震活動が起こると波形が乱れる期間が続くが、その波形がほぼ動かず平板となる期間。静穏化現象が起こると次に急激に波形が下方に落ち込み、その反動で巨大地震が発生すると考えられるメカニズムの周期)」が既に四十年弱続いており、地震周期でいうと「いつでもカウントゼロ状態」らしい……恐ろしい話だが、油断できない緊張状態が地下で続いているわけである。

 あまり適切な表現ではないが、短距離走の選手が準備運動をして体を温めている時間を波形が乱れている期間に置き換えると、静穏期間は選手がクラッチスタートを切る体勢に入ったといった感じだ。

 セットで腰を上げた瞬間が急激な下降波形、で地震が起こるみたいなイメージだ(個人の主観)


 人間にとっては一年と十年は大違いだが、地球にとっては瞬きどころか、まつ毛が抜ける瞬間みたいな時間感覚である……人間の力では地震を抑えることは到底できないが、少なくとも生き延びるための予備は必要だ。

 まずは三日、七十二時間を乗り切ったら大体何とかなる。


 筆者は前述の阪神淡路大震災の一端を経験したが、最も難儀したのが寒さと生理現象(要するにトイレな)であり、次に飢えより乾きの方が厄介だということを痛感した。

 人間、空腹はある程度我慢できるものだが、喉の渇きはそうはいかない。

 そして、冬季の被災では寒さが二次的脅威となる。せめてカイロ一つあるだけでも違うものだ。

 そして一番厄介だったのが、トイレ……人間、どんな緊急事態に陥っても生理現象だけはどうにかなるものではない……本当に。

 水、カイロ、簡易トイレ。せめて三日分の用意があれば、だいぶ心持ちが違う。

 自然の脅威は容赦がない。犠牲者を悼みつつ、自分たちの生存にも今一度思いを馳せたい日だ。

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