二月二十七日 国際ホッキョクグマの日

 平成十七年(二〇〇五年)、地球環境と温暖化の影響を受けるホッキョクグマの現状や保護について考える日として、野生ホッキョクグマの六割が生息しているアメリカとカナダに本部を置く国際NPO「動物保護団体ポーラーベアーズインターナショナル」によって設立された国際デー。


 同団体の活動目的は北極圏の氷の保護で、それによってホッキョクグマの生息域を保全することにあるという。

 日本でもホッキョクグマを飼育している動物園などを中心に、この日に啓発を促す様々なイベントが催されていたりする。


 さらっとおさらいすると、北極圏の大部分は陸地ではなく分厚い氷で占められている。

 陸地が全くないわけではなく、例えばアラスカやクイーンエリザベス諸島、シベリアや北欧のスカンジナビア半島やグリーンランドといった範囲を広義的に「北極圏」と呼んでいるため、一応陸地がないわけではない——という表現になる。

 ただ、肝心のホッキョクグマの生息域が大部分氷の上であることは事実だ。その足元が年々凄まじい勢いで融解していることが、地球規模での一大事というわけである。


 なぜそんな凄まじい勢いで氷が溶けているのかというと、全国地球温暖化防止推進センターの統計によると、北極圏では他の地域に比べて気温上昇が二倍規模で進んでいるらしい。

 そのため、過去三十年あまりでおよそ百万平方キロメートルの氷が姿を消したという。

 ピンとこないと思うので、日本列島で換算すると「日本二回と半くらい沈没」と考えたら何となく規模が掴めると思う。

(日本の国土面積は約三七万八千平方キロメートルくらいだよ)


 ホッキョクグマは、基本的に気温の高い夏場は氷の減少と海水温の影響で狩りが出来なくなるため断食期間となるケースが多く、温暖化でその期間が長くなればなるほど絶滅の危機に瀕していくという。

 更に、主な捕食対象であるワモンアザラシは氷の下に営巣して子育てをする習性があるため、そもそも氷がなくなると子育てできなくなってしまうそうだ。


 加えて、温暖化によって北極圏が外来生物(例えば昆虫とか)の北上の影響を受けて地域の森林形態が損なわれてしまうリスクを伴うという。

 当然、先住民の伝統的な生活も損なわれるし、二酸化炭素を多分に含む氷が大量に溶け込むと、海水の酸性化が進んで海洋生態系にまでが乱れが生じると推察されている。

 実は北極圏の海底には大量のメタンガスが眠っているらしいのだが、蓋の役割をしていた氷がなくなると、ガスが地表に噴出してくる可能性が示唆されている。

 ご存知、メタンガスさんは二酸化炭素さんに次いで二番目に多い温室効果ガスの構成員とされている。


 餌場と子育て環境の減少によるのかは定かではないが、近年の生態研究ではホッキョクグマの小型化が進んでいるのではないかという論文が発表されていたりする。

 過去二十五年分のデータでは、雄の個体で平均四五キロ、雌で平均三一キロ体重が減少しているそうだ。

 個体差はあれども、ホッキョクグマはヒグマに近い種で全長およそ二・五メートル、クマ科でも最大種の一つに数えられてきたクマだということを考えると、些かショッキングなデータと言える。

 科学雑誌ネイチャーに寄稿された二〇二〇年度の論文では、百年後に絶滅していてもおかしくない種と危機感を顕にしているほどだ。


 元々ホッキョクグマの祖先は、およそ十五万年前から地球の過酷な気候変動に耐えて生き残ってきたタフで順応性の高い種でもあり、この小型化が本当だとしたら気候変動に順応している過程だと思いたい——というのは人間のエゴだろうか。

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