二月二十四日 南国忌(直木三十五の命日)

 カクヨムに身を置く以上、無視をしてはいけない日、その二十六。

 大衆文芸の代表的タイトル「直木賞」でお馴染み直木三十五なおき さんじゅうごが結核性脳膜炎を患いこの世を去った日。

 昭和九年(一九三四年)二月二十四日——享年四十三歳のことである。

 大正昭和と活躍した小説家であり、脚本家であり、映画監督でもあるのだが文豪と呼ぶにはあまりに生き様と金銭感覚がアカンタレすぎる御仁。


 大阪で生まれ育ち(おそらくはYDKやれば出来る子だったが)大学進学を機に上京してのちに奥さんとなる女性との生活に学費(月謝制)を注ぎ込み結局早稲田を早々に中退——しかし実家には在学中と嘘をつき続けて仕送りを貰い続け尚且つ、無事に卒業したんやわと更に嘘を重ねてしまったばっかりに就職せなあかんやん——とテンション駄々下がりしながら渋々記者として働き始めることになる。

 ここまでで既に複数回「アカンタレ」を連発しないといけない(気がする)


 企画立案者としては非常に優秀だったようで、当たる記事を連発するのだが(しかも神速度で記事を仕上げる)、その高給は一切身に付かなかったようで、ギャンブルや芸者遊びに使い込んで逆に借金まで作る始末……。


 新規事業を立ち上げる才能はあるのだが、継続させる才能はなかったようで、会社の利益を私的に使い込む始末……と方々でトラブルを引き起こしていたようである。因みに、この時に立ち上げたのが出版社「春秋社」と「冬夏社」だったりする。

 そして、この一連の流れで本人は実は一銭もカネを出していない。

 持って生まれた天性の性格ゆえか、一部界隈では非常によく可愛がられる系の棚ぼた人事で気がつくと取締役になっていた感が凄い。


 結局、会社を追い出されたタイミングと関東大震災が起こったタイミングが重なり、大阪へ戻ってくるのだが、再就職した出版社でも執筆の速さはずば抜けていたようだ。同時複数寄稿はお手のものだったようである。

 この頃からペンネームを直木三十五に固めるのだが、命名についても冗談のような逸話が残っている。

 直木は本名の「植木」を展開したものとして理解できるのだが、三十五というのは年齢で、三十一歳からスタートし年々ペンネームを変えていたら、友人知人に「いや、お前そろそろ大概……」と苦言を呈されて三十五で落ち着いた——という、七面倒くさい経緯があったりなかったりする。


 同時期、映画化の旨みを知り(カネの入りが桁違いになったよ)映画業界へ足を踏み入れることになる。

 脚本俺、監督俺的な感じで制作するのだが、最初のヒット以外は惨敗だった。それで結局「映画なんてバーカ、バーカ」と悪態をついて去っていく。


 実はここでもアカンタレ逸話が残っていて、当時居候までして世話になっていた映画会社マキノプロダクションの主催者の力で自分の映画協会を立ち上げることができたのだが、興行不振と家庭内のイザコザ(牧野の娘と役者が駆け落ちして、激怒する牧野とは対照的に娘と役者の肩を持ったのが直木)が原因で追い出されたのち、牧野の実家が火災焼失した際、見舞いに現れたのかと思いきや、小遣いをもらったその足で「マキノオワタ」と世間に言いふらし、役者が大量離脱する騒動を起こしていたりする。

(もはやアカンがタレすぎてドロソース状態になっている)


 ある意味、実業家としても大成せず、映画監督としても大成しなかったことが直木三十五を小説家へと押し上げるきっかけだったと言い換えても良いかもしれない。

 四十三歳で没するまでに残した小説の多くは、これ以降に執筆しているからである。そして、本人の破茶滅茶な生き様はエンタメ作品として昇華され、特にエンタメ時代劇とも言えるジャンルを確立した功績は大きい。

(エンタメ時代劇の代表格「水戸黄門」の原作も手掛けてたりするしね)


 そして直木賞は本人が立ち上げたものではなく、亡くなった翌年、懇意にしていた友人によって設立された。その知人というのが文藝春秋を立ち上げた菊池寛である。

 波瀾万丈といえばその通りだが、個人的にはどうしても直木の生き様は共感できない部分が多く、現代だったら大成する前に詐欺罪やら横領やら威力業務妨害やらで複数回捕まっていたことだろう——と思う。

 何とも、才能の振れ幅が常軌を逸している作家だ(個人の主観)

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