二月十八日 惑星Xプロジェクトを遂行した結果、冥王星が見つかりました。
昭和五年(一九三〇年)二月十八日、アメリカ合衆国南西部に位置するアリゾナ州に建設されたローウェル天文台で進行中だった太陽系外部に新しい惑星(惑星X)を探すプロジェクトにおいて、第九番目の惑星が発見された日。
その方法とは、当時としては最新鋭の天体写真乾板(静止画)を時系列に見比べて配列が変わっている(動きのある)星をチェックしていくというものだったという。
同年一月二十三日撮影分と同じく二十九日撮影分の膨大な量の写真資料を逐一見比べるという気の遠くなるような作業の中で、「どうやら特定の動きをしているらしい天体」を発見するに至った。
何ぶん昭和初期時点の最新技術なので、中には不鮮明と言わざるを得ない資料もあり検証には随分と苦労をしたようだが、それでも新惑星(である可能性の高い天体)の発見はすぐさまローウェル天文台からハーバード大学天文台へと情報が送られ、同年三月には正式に「第九惑星発見」という公式発表が出されることになったそうだ。
直接の発見者は、当時若干二十四歳だったクライド・トンボー氏(アメリカ人天文学者)だったが、惑星の命名権は所属していたローウェル天文台の所長にその権利があるというシステムだったらしい。
この新しい惑星が他でもない「冥王星」なのだが、命名の経緯については少し面白い話があって、そもそも「冥王(プルート)」と名付けたのはイギリスの十一歳の女の子(当時)きっかけだと言われている。
イギリス、オックスフォード出身の天体と神話大好き少女が、オックスフォード大学図書館の元司書という肩書きを持つ祖父との会話で「暗い星なんだよね。じゃあ、プルートなんてどう?」という旨の提案をしたという。
実際、冥王星は十五等星という扱いで非常に暗く(天体の明るさは一等星が最も明るいとされている)、そのせいで観測と発見が難航したとも言われている。
また、他の天体が概ね太陽の黄道面に配列されていることに対し、第九惑星だけは十七度ほど傾いた軌道を持つため、少し特殊な動きをしていることになる。
月より小さい惑星だが、一番最寄りの惑星である第八惑星、海王星の軌道にも僅かながら干渉するだけの引力は有していたりと、ある意味異質な星だ。
そんなイメージが十一歳の少女には、ギリシャ神話およびローマ神話において絶対神ユピテル(ジュピター=木星)の兄でありながら「地下世界に追いやられた(といっても過言ではない扱いの)冥界の王」というキャラクターであるプルートと重なったのだろう。
そして、そんな少女の言葉を無碍にせず、祖父がオックスフォードのツテで、イギリスで著名な天文学者にことの次第を伝えたところ、その学者もまたアメリカの同僚に電報を打って少女の提案を伝え、それが回り回ってローウェル天文台で真面目に候補としてノミネートされて最終的に選ばれたというわけだ。
そんな冥王星だが、平成十八年(二〇〇六年)八月に惑星から降格して「準惑星」という区分に変更された。
というのも、この年に「惑星の定義」が次のように定められたためだ。
一つ、太陽の周りの軌道上で公転していること
二つ、静水圧平衡(流体に働く重力と圧力勾配が釣り合っている状態)によって球形を保っていること
三つ、自分よりデカい天体が近くにないこと
最寄りの海王星とは軌道上、一・三倍ほどの距離があり、また近くの天体「ケレス(大地の女神)」も冥王星より小さいため問題にはならなかったのだが、平成十五年(二〇〇三年)冥王星のすぐそばに、冥王星より僅かばかりデカい天体「エリス(不和の女神)」の存在が発覚した。
そして、三つ目の条件に引っかかった冥王星は「惑星」の条件から外れてしまったというわけだ——と言っても、地球人都合の解釈である。
絶対神ユピテルを筆頭にコンセンサス十二神(ギリシャ神話ではオリンポス十二神)にノミネートされない場外扱いのお兄ちゃんであるプルートは、惑星序列でも残念な扱いをされている……と考えると、何だか不憫極まりない。
(因みに、ケレスは十二神メンバー。エリスはユピテルも慄くジョーカー扱いだったりする)
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