一月二十四日 ゴールドラッシュデー
時代は着々と幕末に向かっていた弘化五年(一八四八年)一月二十四日。
日本では第十二代将軍徳川家慶の頃だが、太平洋を隔てたお向かい北米大陸の西側カリフォルニアで、川から砂金粒が発見された。
後世に語り継がれるゴールドラッシュの始まりである。
かつて、カリフォルニアはメキシコ領だったのだが、アメリカとの戦争でぶん取られた結果、メキシコは領土の三分の一をこの時点で失ったという。
しかし、当時は住民の大半がネイティブアメリカンで、それ以外の入植者は二万人に満たない土地ばかりが広い弱小エリアだった。
メキシコ領だった頃から広大な農地を保有し製材所を営んでいた片田舎の経営者ジョン・サッター氏が水車を稼働させていた川が件の砂金が発見されたアメリカンリバーである。
某夢の国でトロッコ型コースターが走る大きな雷山アトラクションのモチーフになっているアレだ。
その製材所の従業員が砂金の第一発見者だった。
自分達の農業計画を守るため、製材所メンバーは「(砂金が採れると)知れたら農地が荒らされて困る……」と危機感を持ち、黙っていたようだが、知人の日用品商店の経営者兼新聞記者(それまでに職歴は様々経験している)に口裏を合わせてもらおうとお願いしたところ、そいつが盛大に裏切った(というか商機と捉えて聞く耳を持たなかった)。
あっという間にアメリカンリバーで砂金が掘れるという話は全米に広がり、砂金掘りに必要な道具が飛ぶように売れた。
サプライヤーとして、がっぽり稼いだのが前出の日用品商人サミュエル・ブラナン——カリフォルニア州初期歴史において最も有名な人物の一人として名前が残っていたりする。
政府も公式に砂金採掘をアナウンスしてしまったことで全米から一攫千金を夢見る労働者が集結し、ど田舎扱いだったカリフォルニアは四年で人口二十万人を超える大所帯となり、正式にアメリカの州として格上げされた。
因みに、集結した入植者の人口比率でいうと、清国人が最も多かったとかなかったとか(一説によると、当時の全米に展開していたおよそ七〇パーセントにあたる十一万人が大集合したという話もある)。
そして、労働者向けの丈夫な衣服を販売開始し、これまたがっぽり儲けたのがリーバイ・ストラウス——ジーンズの超有名メーカー「リーバイス」の創始者である。こちらは現在進行形でガツガツお稼ぎである。
人とモノが集まれば、当然必要になってくるのが輸送手段と換金施設及び送金手段だ。
アメリカ大陸を横断する鉄道網が整備され、掘り当てた砂金は現金化や故郷へ送金するためのシステムが構築されていく。
要するに輸送と金融が鍵を握ることになる。
ここでがっぽりと儲けたのが、ウェルズ&ファーゴの二人だ。
現金輸送(いわゆる書留的なもの)と郵便、銀行業を合わせたような事業を展開して後々クレジットカードという決済システムを作り上げ、えげつないほど稼いでいる——現在のアメリカンエキスプレスである。
アメックスのブラックカード(チタン製)と言えば、富豪の代名詞みたいなものだ(と勝手に思っている)。
さて、ここまで見ていてふと気づくことがある。
ゴールドラッシュで実際に稼ぎまくったのは鉱夫ではなく、その周辺事業に目をつけた人々である——という点は非常に興味深い。
実際、カリフォルニアのゴールドラッシュ最盛期は数年で下火を迎え十年余りで終了している。
人力で掘れる表層部分の金鉱は程なく枯渇してしまったし、鉱夫の多くはパーッと稼いでパパーッと使ってしまうか、その金を運用しようとして大コケしたりと、結局大金は身に付かなかったようだ。
そして何より、労働そのものが過酷を極めた。現場レベルでは労力に見合うだけの結果が伴わないケースの方が多かったらしい。
そして本来の当事者であったジョン・サッターはどうなったかというと、当然土地を荒らされて困り果て裁判を起こして勝訴はしたものの、多方面から逆恨みを買ってフルボッコにされている……(全財産失って引っ越しまで余儀なくされた)。
死後、カリフォルニアの発展の基礎になった事実は事実として功績を讃えられ、彼の名前はサンフランシスコの中心地にサッター・ストリートとして、またカリフォルニア州のサッター郡として現在も残っているそうだ。
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