十二月十九日 ディケンズ著「クリスマス・キャロル」が出版された日

 クーリス・マ・スが、こ・と・しぃもぉ、やーって来るー♪


 楽しかった出来事を消しさられては困るのだが、そういうストーリーが世に受けた不朽の名作が、この日出版された。

 カクヨムに身を置く以上、無視をしてはいけない日、その十九。


 現在ではイギリスを代表する二大文豪といえば、シェイクスピアとともに並び称されるチャールズ・J・H・ディケンズ。

 圧倒的階級差別が根底に蔓延はびこる伝統的なイギリスの社会構造の中で、中下層に位置する人々の視点で綴られる風刺作品が多い印象のディケンズだが、その前期代表作ともいうべき「クリスマス・キャロル」が世に出たのは天保十四年(一八四三年)十二月十九日のことだった。


 日本では葛飾北斎や曲亭馬琴が健在だった江戸末期。

 イギリスは俺様何様ジャイアン街道を元気に邁進中のぶりっ子天邪鬼(略してブリテン)——女王陛下をいただくヴィクトリア王朝時代の頃である。


 父親が海軍の会計吏であったディケンズ家はいわゆる中流階級で、堅実に生活していればそこそこ不自由のない生活ができるポジションだったのだが、両親揃って金銭感覚が完全崩壊したドポンコツ(失礼)だったため、家計は常に火の車……。

「お前が(父ちゃんに代わって)か・せ・げ♪」

 と、ティーンエイジに満たないチャールズ少年を労働環境激悪の超絶ブラック企業で働かせる始末だ。


 あまりの酷い扱いにPTSDになる程メンタルをやられる息子をよそに、両親の放蕩ぶりは改善するどころか悪化しており、いつの間にか破産した挙句、借金を踏み倒そうとして逮捕収監されている。

 一家揃って監獄生活を始めるのだが、一緒に住みたい(今の労働環境より監獄の方がマシ)と懇願するチャールズ少年だけは相変わらずブラック企業で働かされていたという。


 ヴィクトリア王朝中期にもなると中流階級の子供たちも寄宿舎での基本教育が受けられるようになっていたのだが、こういう事情もあってチャールズ少年は転校を繰り返し勉学を修める機会を中途半端に放棄させられている。


 清々しいほどの一家(特に父親)のクズっぷりだが、後々、一家はディケンズ作品のモデルとして端々に登場していたりするので、創作的なネタの宝庫であったことは間違いない(と思わないとやってられない)。


 ディケンズ作品の詩的表現は割と独特で、そのまま読み下そうとすると意味不明になりがちなところが多々あるのだが(それが味でもある)、優秀な日本語訳のおかげで非常にエンタメ性の高い仕上がりになっているし、児童が読んでも理解しやすい内容になっているのは、さすがだなと感心する(割と夢も希望もない顛末も多いが……)。


 さてこの「クリスマス・キャロル」、異常ともいうべき守銭奴スクルージ(共同経営者だった亡き友人への冥銭まで墓場から掻っ攫うようなヤバさ)の改心がテーマになっているクリスマスの奇跡を綴った物語なのだが、やはり焦点を当てているのは「貧しい人たち」の生活だ。

 第二黄金期を迎えていた大英帝国の闇の部分——経済発展から置き去りにされた人々の質素で飾らない日常と悲哀を実にファンタジック(ちょっと破茶滅茶とも言える)に描いているディケンズの世界観には常に死の影が付き纏う。


 幼少期に心身ともに打ちのめされたディケンズの苦悩とトラウマをありありと感じさせるが、それでもどこか縋るような希望を心の奥底に持ち続けた生き様が生々しいばかりだと思う。

 個人的には「オリバー・ツイスト」や「デイビッド・コパーフィールド」の方が好みではあるのだが(人間のエグさという意味で)、ディケンズ作品に共通しているのは、強烈な個性のキャラクターが勢揃いしていて、それが善悪問わずに魅力的というあたりかなと思う。

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