十二月十二日 ルーブルから消えたモナリザがイタリアで発見された日

 モナ・リザといえば、イタリアで花開いたルネサンス芸術の巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの世界的に有名な傑作の一つだ。

 当人の思い入れも相当深かったのか、晩年を過ごしたフランスにも携帯しており、没後はヴァロワ朝時代の第九代フランス王フランソワ一世(当時)に献上されたとされている。

(フランソワ一世はルネサンス期のフランスにおける文化芸術の庇護者的存在——芸術といえばイタリア一強だった当時、この人の影響力でフランスもぶりぶり芸術値を上げていったよ。本人は割と曲者だけどね)


 余談だが、ダ・ヴィンチがイタリアで元々仕えていたミラノ、スフォルツァ家はフランソワ一世が仕掛けた戦争で領地をぶん取られた挙句、追っ払われた。

 で、そのままフランソワ一世がダ・ヴィンチの新しい主に収まって宮廷画家に召し上げたというのが通説だ。

 イタリアを代表する世紀の画家の傑作が現在もフランス、ルーブル美術館に収蔵されているのは概ねこういった経緯の上である。


 そんなモナリザだが、ある日、忽然とルーブル美術館から盗まれるという事件が起こり、実に二年以上も行方不明になっていたことがある。

 それが明治四十四年(一九一一年)八月の出来事なのだが、アルセーヌ・ルパンのような華麗な怪盗が盗んでいったのではない。当時、絵画の保護ケースを搬入設置する仕事に従事していた出入り業者による犯行だった。


 後世に残っている犯人の名前は、ヴィンチェンツォ・ペルッジャ(イタリア読み)、イタリア北西部ロンヴァルディア州ヴァレーゼ県ドゥメンツァ(スイスと国境を接する小さな自治体)出身の男である。

 ちなみに、ロンヴァルディアの州都はミラノだ。


 ペルッジャは美術館の休館日に堂々と職員が身に纏うスモックを着用し、壁から絵を外してスモックの下に隠し、そのまま美術館を後にしている。


 盗まれた翌日、当然のように美術館は大騒ぎになったのだが、当時の警察もまさか単独犯だとは思わなかったようで、国境封鎖こそしたものの犯人検挙には至っていない。

 その間、絵はペルッジャのパリ市内の住居におよそ二年間保管されていたという。警備も警察もザルすぎる……と思ってはいけないだろうか……。


 世紀の名画紛失という大失態によって、当時の美術館理事たちはこぞって罷免されているし、警察も血眼になって犯人探しをする中、友人が芸術品窃盗をやらかしているという理由で、キュビズムやシュールレアリズムに造詣の深い詩人ギヨーム・アポリネールや画家パブロ・ピカソも容疑者にされていたというから不憫極まりない話だ。

(逮捕されたアポリネールはこの時の経験がトラウマになっている)


 かたや真犯人ペルッジャは、呑気に本国イタリアの数多の画商に向けて「モナリザあるで」と封書を送っていたりする。

(手紙の検閲してなかったんかーい!)


 そこに食いついた一人の鑑定士が「マジで? 鑑定するからフィレンツェ来ぃや」と返事をする。

 そしてペルッジャは、いそいそフィレンツェへとモナリザを持参するのである。

(あれ、国境封鎖って何だっけ?)


 そして大正二年(一九一三年)十二月十二日。

 かくして、モナリザは「本物」と鑑定され、イタリアで無事発見されるのである。


 盗んだ真犯人ペルッジャはイタリアで一応逮捕された。

 その時の動機として「ナポレオン政権下のフランスにぶん取られたイタリアの宝を取り返して何が悪い」という旨の供述が残されているという。

 盗人猛々しいとは、まさにこの事だ。

 事実誤認と暴走した愛国心ゆえの犯行と結論付けられており、また精神鑑定上「ちょっとアレだったんで……」という理由で、裁判では実刑判決を受けたが幾分減刑されている。

 正直、イタリア国内での逮捕裁判だったからこそ、この程度で済んだという感が否めない。

 発見されたモナリザは正式にフランスへ返還されている。


 しかし、イタリアの本心として、ペルッジャの行為をどこか「良くやった」と思っている感がそこはかとなくする。

 事件から百年以上経った現在もペルッジャを英雄視するオペラが存在したりと、ひっそり芸術化されていたりするのだ。


 あくまでも私見だが、私も「別に重要文化財が損壊するリスクのある国事情でもなし、いい加減(財政難の)イタリアに返してやれよ……」と思ったりする。

 でも、そんながっぽがっぽのドル箱観光資源を基本がめつい漁夫の利スタンスのフランスが易々と手放すわけがないのだ。

 フランスとはそういう国である(偏見)

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