十二月四日 血清療法の日

 血清療法——動物の血中に特定の菌体を少しずつ打ち込み、抗体を得た血清を特定の菌体に感染した患者に注射することで、その菌体による体内毒素を中和する治療法のことを指す。

 例えば、「毒蛇に噛まれた」「傷口から破傷風菌に感染した」といった緊急を要する応急処置的な治療に絶大な威力を発揮する。この方法で他にも、コレラ菌やチフス菌、赤痢菌などにも幅広く対応できるようになり、多くの人命が救われるようになったという。


 現在ではインフルエンザウィルスの予防接種などにも応用されている免疫血清治療法の一つだ。

 その始まりともいえる研究には、二人の博士の名前があがる。それが即ち、エミール・アドルフ・フォン・ベーリング(第一回ノーベル生理医学賞受賞者)と我らが北里柴三郎である。


 北里柴三郎といえば、明治時代中期に日本でもじわっと流行した謎の病原体(第三次ペスト世界流行パンデミック)の蔓延していた当時の香港に派遣され、その正体であるペスト菌を発見し、さらにはその治療法(血清)に大きく貢献した人物だ。


 これに先立つ研究が、明治十九年(一八八六年)からの六年間、留学先のドイツで経験した破傷風菌の発見と純正培養の成功、そして治療法(血清)の開発と確立であったというわけだ。

 一方、同僚だったベーリング博士が専門にしていた血清療法の対象はジフテリアだった。

 一応、血清療法の開発は北里の功績によるところが大きいのだが、結果として二人は共著というかたちで「動物におけるジフテリア免疫と破傷風免疫の成立」という内容の論文を発表している。


 これらの抗体を発見した日が明治二十三年(一八九〇年)十二月四日であったことから、後世この日を「血清療法の日」に制定したという。


 今や「日本細菌学の父」とさえ呼ばれる北里柴三郎の功績は間違いなくノーベル賞に値するものだったと言っても過言ではない。

(しかし、時代が時代だけに北里は結局ノーベル賞を獲り損ねているんだよね……今なら何の問題もなく共同というかむしろメインで受賞できたと思うと残念で仕方がない)


 そんな北里の残したとされる名言の数々が、これがまた心にクる。


「細菌学者は、国民にとっての命の杖とならねばならない」


「研究だけをやっていたのではダメだ。それをどうやって世の中に役立てるのかを考えよ」


「医者の使命は病気を予防することにある」


「君、人に熱と誠があれば何事でも達成するよ。よく世の中が行き詰まったと云う人があるが、これは大いなる誤解である。世の中は決して行き詰まらぬ。もし行き詰まったものがあるならば、それは熱意と誠意がないからである」


 これをクールジャパンと言わずして何とする。

 この人の前では世紀の賞もさしたる価値がないのだろう……これがイケメンタルか——と自然と頭が下がる思いだ。

 まさにタイムリーな世の中だからこそ、偉人の言葉が刺さり過ぎて痛い(特に最後の)。


 ある意味、この人が二〇二四年から「新千円札の顔」になるという現状タイミングが神がかっている。

 コロナで世界的に混迷を極める昨今、周囲に惑わされず、ただ自分の成すべきことを粛々と為せば良いと開き直る良い機会かもしれない。

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