十二月二日 古都奈良が世界遺産に登録された日

 平成十年(一九九八年)十二月二日、奈良の文化財八箇所がまとめて「古都奈良」の文化財として日本で九番目の世界遺産に登録された。


 その八箇所というのが、東大寺、興福寺、春日大社および春日山原始林、元興寺、薬師寺、唐招提寺、そして平城宮跡である。


 国難(当時)にあたり「でっかい仏像造ろうZE☆」でお馴染みの奈良の大仏様は天平勝宝三年(七五一年)に完成した大仏殿の中に鎮まり、何度か火災に見舞われながらも都度再建されてきた。

 現在の大仏殿は宝永六年(一七〇九年)に再建された世界最大規模の木造建築物ということになっている。年末になると蔵開き(違)する正倉院展——大仏建立の音頭をとった聖武天皇愛蔵コレクションは東大寺の所蔵である。


 興福寺は藤原一族の氏寺うじでらとして建立され、平城京の遷都にも付いていった寺院。

 藤原さん家の私的な寺のはずだが、建設は天皇皇后両者が絡んで政府主導で行われた経緯がある。(もっとも光明皇后は藤原氏の娘だから身内特権ゴリ押したといって差し支えないだろう)

 こちらも何度か火災に見舞われているが、その度に藤原くんが幅を利かせて再建している。いかに強大な権力を持っていたかが偲ばれるというものだ。

 現在では、「奈良の五重塔」といえば「興福寺」と返ってくる代表的な立ち位置にいる。


 春日山を背後に従える春日大社は、社伝によれば創建、天平神護二年(七六八年)とされているが、一説には実際は奈良時代の初め頃(だいたい七一〇年〜)から存在していたんじゃないかと言われている。

 元々、神々の宿る山として信仰対象であったものが、時の権力者(藤原氏を含む)によって確固たる崇敬の対象になったと思われる。

 原始林は承和八年(八四一年)——平安時代初期には狩猟伐採が禁止され、以来こんにちまで鎮守の森として大切に保護されている。


 山藤の季節の春日大社は、藤色と山の緑に社殿の朱が映えて圧巻の一言だ。

 運が良ければ見られる「鹿が一生懸命背伸びして藤の花にがっついている光景」も迫力がある。

 鹿せんべい以上に食いつきが良いので、多分、鹿の味覚的にもせんべいより美味しいのだろう。


 元興寺については、飛鳥時代に建てられた飛鳥寺(蘇我馬子が六世紀に創建)を平城京に持ってきて名称変更したお寺だ。

 昔の面影を残しつつ、鎌倉時代に一度改修されて浄土宗の念仏道場として庶民に広く親しまれたという。


 薬師如来を御本尊とする薬師寺も、元は藤原京から平城京にお引っ越しした寺社である。

 病気平癒を願った天武天皇の号令で創建された法相宗ほっそうしゅう(日本仏教最古の宗派)の大本山という立ち位置だ。

(因みに、法相宗はみんな大好き西遊記に登場する玄奘三蔵法師を始祖と仰いでるよ。玄奘三蔵のお弟子さん=慈恩大師じおんだいしが宗祖なんだ)


 西から見ると若草山と春日山を背景にドーンと聳える様はカッコ良すぎて鳥肌が立つ。

 だが、創建当時から残っているのは東塔だけで、他は何度も消失しては再建されている。平成令和にかけて尚、現在進行形のプロジェクトだ。日本に仏教が伝来した当初の寺の全体像(というか、もはや町?)を再現している貴重な寺社の一つである。


 唐招提寺といえば、言わずもがな唐の鑑真和上が創建した本格的な修行場としての寺院だ。「天平のいらか」といえばここである。

 歴史の重みを感じるという意味では奈良県内でも随一と言って良い、一言で「非常に渋い建築物群」である。こちらも敷地はべらぼうに広く、日本に伝来した仏教の初期の姿を十分に体感することができる。

(言い方は悪いが、京都に現存している寺社仏閣の多くは貴族社会の弊害か、非常に簡略化されてコンパクトになっていることがよく分かる。仏教寺院を満喫するなら圧倒的に奈良に軍配が上がる)


 そしてコロナ以前、唐招提寺は日本人観光客よりも中国人観光客に圧倒的人気を誇っていたのは新鮮な驚きだった。何だったら東大寺よりも人気だったくらいだ。

 何でも、中国には唐の時代の本格的な寺社仏閣はほとんど残っていない(?)そうだ。それが日本で原型を留めて見られるというのはとても貴重ということらしい。そういうものなのか。


 さて、最後に平城宮跡だが、こちらは地下の遺構が非常に状態良く残っていてそれを元に地上の建築物再建プロジェクトがじわじわ進行中だ。

 近鉄奈良線から見える「広大な敷地に突然ポツンと現れる大極殿」は、なかなかインパクトのある光景だ(と個人的に思っている)。

 現状では朱雀門と第一次大極殿の復元が終わっているが、いっそVRなんかで丸ごと再現する方が面白かったりして……と思ってしまうお気楽能天気な他府県民である。


 奈良県はそこらじゅう掘り返すと、この手の遺構、遺跡、埋蔵品がわんさと眠っているので下手に掘り起こしてヒットしてしまうと、行政を巻き込んで現地調査が行われる。

 現在の中心地とかつての都の中心地が丸かぶりしている奈良県で土地不動産を売買する際、一番気をつけるべきことがコレだったりする。

(自分の土地から出土品が見つかると、届出が必要な上に専門家の調査でマイホーム建築を一旦ストップせざるを得ないとか普通にある話みたいだからね)

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