十一月二十九日 今日から大日本帝国憲法やりまっせ

 明治二十三年(一八九〇年)十一月二十九日、この日、近代日本が立憲国家として歩み始めることとなった。

 大日本帝国憲法と呼ばれた「国家運営の方向性」を示す大枠なのだが、そもそも日本が憲法を持つきっかけとなったのは、欧米から舐めてかかられていたからだと言い換えても割と差し支えない。


 幕末期、ゴリゴリ押されて締結してしまった不平等条約(=日米修好通商条約)は日本にとって何らメリットのない条約だった。

 明治政府となって再交渉を持ちかけるもマトモに相手にしてもらえなかった当時の日本の体制は、国家権力がどこにあるのか、誰を中心に動いているのか曖昧で、ふわっとしていたために、外国から見て「国として信頼のおける状況ではない」と判断されたことも、一理あると言えば、ある。


「ウチクビ、ゴクモン、ノーサンキュー。アリエーマセーン」

 と衝撃を受けた諸外国が自国民を守るためにも、領事裁判権や治外法権を行使した経緯は分からなくもない。

 逆の立場で考えて、しきたりも文化風習も分からない首チョンパ族の中にある日、日本人がポーンと放り込まれて彼らのやり方で裁かれるような事態になったら日本政府も流石に「ちょっ、待てよ!(トレンディードラマ風)」と言ってくれるだろう(と信じている)。


 もっとも、明治政府は当然のように声をあげていたはずだ。

 即ち、「わてら、そない野蛮ちゃいます」と。

 その目に見える結果が、議会の設立であり、憲法の制定であり、近代的な選挙の導入とかだった。


 で、最初に「国としての議会を形にしましょ」というわけで初代内閣総理大臣となったのが伊藤博文である。

 この人が「大日本帝国憲法」の草案をまとめるのだが、膨大な仕事量となるため、総理大臣を辞任してドイツへ憲法留学して頑張った。

 天皇を主権とした国家運営をしたい当時の日本にとって、ドイツの皇帝主権はお手本にしたい実例だった。

 ばっくり内容を掻い摘んで叩くと、こんな感じだ。


 一つ、主権は天皇にあります。

 一つ、天皇には内閣の大臣やらを任命、解任できる権限があります。

 一つ、天皇は緊急事態の時は議会が閉廷中でも勅令が出せます。

 一つ、陸海軍のトップは天皇です。兵量や作戦内容なんかも決める権限があります。

 一つ、全部一人で決めるのは大変だから、天皇には各分野の専門サポーター兼アドバイザーが付いています。

 一つ、それら専門サポーターには選挙で選ばれる衆議院と、天皇が選ぶことができる貴族院と、軍事の参謀本部と軍令部があります。

 従来の宮廷行事は宮内省が担当します。

 あと、明治維新を成し遂げた元老院GRI48(仮)も付いてきます。


 みたいな感じだ。

 原文は漢字とレ点で読み下す必要があるため、現代日本人には非常に馴染みのない表現と文言が並んでいるので、イメージだけ掴めればそれで良し。


 世界規模での時代が時代だけに、国家君主の強権が際立っている帝国主義的だが、実務者レベルでは内閣府の各大臣が事実上のトップであり、軍部は内閣府からは独立した強権を有していて、宮内省(=内大臣を筆頭に)もまた内閣府からは完全別組織となっていた——といった感じで、それぞれの部署が直接天皇に紐づいている構図で、さながら多頭飼育のワンちゃん散歩みたいな状況だった。


 だから、大臣同士が対立すると内閣総辞職で仕切り直すしかないし、軍部は直接内閣府とは紐づかないため、独自の指示系統を持ち、更には陸海合わせて四部門の構成が後々の軍部暴走を招くことになる。


 それでも最初は元老院GRI48が健在だったため、揉め事が起こると彼らのマンパワーを炸裂させて事態を収拾していた。

山縣有朋たかみなが言うなら……」とか「伊藤博文あっちゃんが頑張るなら……」みたいな感じ(違)


 しかし、GRI初期メンバーが次々と寿命やら暗殺やらでこの世を去ると、システム化されていない国会は激動の時代とともに徐々に混迷を極めていくことになる。

 大日本帝国憲法の最大の弱点ふわっとは、この辺りに起因すると思う(個人の主観)


 とはいえ、立憲国家としては現行の日本国憲法の定礎となった不肖のお兄ちゃん——それが「大日本帝国憲法」であると言えるのではなかろうか。

 もちろん、現行の日本国憲法では主権は国民にあり、国会議員は男女とも選ぶし選ばれるもので、それは民意を反映していることが前提である。

 しかし、お兄ちゃんが半世紀以上もテコ入れされずに戦争に次ぐ戦争の末に多くの人命が失われたのだから、弟には時代に則した修正メンテナンスが必要なんじゃないかと思うんだけどね(小声)

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