十一月十八日 世界的に有名な夢の国のネズミとその彼女がスクリーンデビューしたのでそのまま誕生日になった日

 迂闊に名前を出してはいけないあの企業のドル箱キャラクターズがスクリーンデビューを果たしたのは、昭和三年(一九二八年)十一月十八日のことである。


 明るい曲調に乗せた白黒短編アニメーション映画が最初の一歩だった。あの独特の裏声を当てていたのは作者WD氏自身というのは有名な話だ。


 元々、前身作となる黒うさぎモチーフのキャラクター(オズワルド)が存在しているのだが、これはライバル企業ユニバーサルスタジオの依頼で制作されたものだったそうだ。

 で、これがなかなかのヒット作になったのだが、これきっかけでユニバ側と著作権、利権、値上げ交渉でことごとく揉めて疎遠となる。挙句、クリエーター陣まで丸ごとごっそり持っていかれたという……。

(さすが、訴訟と権利主張大国アメリカ。やり方がえげつない)


 まさにWの悲劇(違)

 大企業相手に煮湯を飲んだW氏だったが、奮起して生み出したキャラクターが現在のネズミ氏である。

 欧米では特に忌避される対象だったネズミをじっくり観察し、デフォルメした姿が例のあの人なのだが、W氏の恨みつらみが見事に昇華された権化と言える(個人の主観)


 このネズミ氏、当初W氏は「モーティマー」と命名する予定だったとか。

 しかしリアルに奥様に大反対されて現在の名前になったという。

 でも、諦めないW氏。

 没案にされた名前はネズミ氏のライバルに当てられた。(ついでに、ネズミ氏の彼女の叔父さんにも同姓同名がつけられた)


 そこまで拘る理由が気になり、一応調べてみた。

 諸説あるが、うちの一つ「モーティマー」は「モーティファイ」由来であるというものだ。

 英語だと「mortify(=屈辱を味わう。悔しがる。心を痛める……など)」というネガティブな意味合いの動詞だ。


 ——。あぁ……(察し)


 これに関しては、冷静に反対した奥様のファインプレーだろう。

 キャラクターの名前は大事だ。恨みつらみをそのままぶつけなくて正解だったな……と思う。

 危うく、ネズミ氏は「屈辱傷心ちゃん」として世界的認知度を誇ることになるところだった——というのは、ここだけの話にしておくべきなのだろう。

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