十一月十六日 ジョホールバルの歓喜

 平成五年(一九九三年)にJリーグが開幕してから三十年弱——昨今、サッカーW杯ワールドカップ常連出場国となってきたサムライブルーこと日本だが、その第一歩は一九九八年のフランス杯であった。


 平成九年(一九九七年)十一月十六日、マレーシア、ジョホールバル開催となったアジア最終予選。

 これを勝てば晴れてW杯出場という大事な試合の対戦相手は強豪イランだった。


 今やサッカー解説でお馴染みとなった中山ゴンや北澤豪きたざわ つよし、レジェンド・キングカズらが現役バリバリ世代で臨んだ試合である。


 遡ること四年前、同じくW杯(アメリカ)への出場をかけたアジア最終予選では、後半残り時間わずかというところで相手チームに同点ゴールを決められて予選敗退した「ドーハの悲劇」を経験しているメンバーだ。

 同じ轍は踏めない気合の入る試合だった。


 開始早々、あわやオウンゴールをやらかすところだった不安定な立ち上がりからの前半三十九分、中山ゴンが先制点をぶちかます。

 解説の「ゴンゴール」連呼は、なかなかキャッチーな言葉選びだったと思う(笑)

 このままイケイケしたいところだが、攻めても攻めても攻めきれない展開が続く。ヒヤヒヤしながら見守るも勢い付けたいダメ押しが効かない。


 そして後半開始早々、わずか三十秒そこそこでイランの反撃の狼煙が上がる。そのまま、立て続けてもう一点追加で入れられ、後半十三分の時点で既に一点ビハインドという嫌な流れがサムライブルーを襲う。

 このタイミングで、ゴンとカズがベンチへ下げられた。

 どうにも納得できない様子の二人に代わって入った城彰二じょう しょうじ呂比須ロペスワグナー。

 だが、この二人が後半やってくれた。


 後半三十分、決めきれない展開を打開する、相手ボールをカットからの一旦外に逃して内に入れたクロスボールに合わせた城のヘッドが決まる。

「ゴンゴール」に続く、興奮したアナウンサーの「ジョーヘッド」連呼も、もはや名言だろう(笑)


 何とか同点に追いついた後半戦、互いにゴールが遠い展開が続く。

 ヤキモキしながら突入した延長戦——打てども打てども決まらないシュートに溜息と悲鳴が混じる。

 疲労のピークに達しながらも頑張る選手を、サッカーのカミサマはどうやら見捨てなかった。

 延長後半戦十三分過ぎ、呂比須がカットしたボールを中田ヒデが受けて走り込む。打ったシュートは相手キーパーに弾かれたが、溢れたボールを野人、岡野が執念で捩じ込んだ。


 三対二。

 ゴールが決まった瞬間の、アナウンサー解説にあるまじき完全に声が裏返った歓声と「日本勝ったぁ——!」「やったぁ——!」に滲む悲願達成は、今思い出しても胸アツだ。

 日本サッカー史上初のW杯出場——この時の感動を超えようとしたら、サムライブルーのW杯優勝レベルじゃないと無理だと思う(と個人的には思っている)。


 ナデシコは一足先に頑張ったから、次こそはサムライブルーの番だと毎回思いながら、ひっそりと応援している次第だ。

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