十一月八日 レントゲンさんがX線を発見した日

 十九世紀末に偶然発見され、二十世紀最大の功績とも言われているX線。

 メスを入れずに体の内部組織を可視化することができるようになり、医学的技術は著しく進歩した。

 現在、X線は防犯面(空港の手荷物検査等)や芸術、考古学分野での貴重資料の非破壊検査などでも活用される、実に汎用性の高い技術だ。


 発見したのはドイツ(当時はプロイセン王国)出身の物理学者ヴィルヘルム・C・レントゲン博士(当時五十歳)——のちの第一回ノーベル物理学賞受賞者である。


 彼はもともと「陰極線(真空管の中で発生する電流の一種。電子線とか電子ビームとか言われているよ)」を研究していたのだが、実験装置を起動している際に発する蛍光の正体が気になって調べ始めたのがきっかけだったそうだ。


 で、ばっくりと何をしたかというと、その蛍光を遮るように様々な物体を置いて光がどんな風に透過するかを色々試してみた。

 その過程で、「表から見えない内部が透けて見える特性がある」ということを発見したというわけだ。


 この現象を証明するために、光を写真乾板に写して鮮明な画像として残した。こんにちも健康診断などで活用されているレントゲン写真の原型だ。

 初めて撮影されたとされる写真は骨が透け透けの掌だった。


「とりあえず未知数だけど目には見えない何かすごいモノ」的な意味合いで、この蛍光は「X線」と名付けられた。

 翌年には論文をまとめて物理学会の著名人に送付している。

 論文と証拠写真は、あっという間に世間を席巻し、X線は世紀の大発見として認知されることになる。この功績でレントゲン博士はノーベル物理学賞を受賞することになるわけだ。


「特許申請せえへんの?」

「え、なんで?」


 金儲けにはまるで無頓着なレントゲン博士は、あえてX線の特許を取得しなかったようだ。

 そのおかげで、こんにちの高い水準の医療技術や古美術品の修復などが可能になったとも言えるのである。

 いかにも研究者らしい姿勢だと思う。


 実際、「X線の発見そのものは偶然だった」が、レントゲン博士以前にも類似の研究に勤しむ学者はいた。その流れを汲んだレントゲン博士のターンでたまたま結果が出た——と捉えるのが一番しっくりくるだろう。


 健康診断でほぼ必ずお世話になるレントゲン写真——この発見がなければ、体内の健康チェックは基本姿勢「体をさばいて目視」という恐ろしい事案になっていたかもしれないと思うと、ありがたさも一入ひとしおである。

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