十月二十四日 ウォール街大暴落が始まった日(暗黒の木曜日)

 コロナ禍の現在、不況不況とリーマンショック以来の経済危機を懸念する記事やメディアには事欠かない。

(確かに、株式や投資をガッツリやってる人たちは悲鳴をあげて真っ青にならざるを得ないし、就活真っ只中の学生も心を折られまくり、雇用の打ち止め、リストラバーゲンと化す事態は、今も昔もあまり変わらない……が、あまり煽らないでほしい)


 現況も大概だと思うが、今から九十年以上前、第二次世界大戦の間接的な引き金となった超ヤバイ不況(=恐慌)が現実に起こった。

 こんにち、世界恐慌と教科書で習う例のアレである。

 そもそも恐慌って何なん?

 何がそんなにヤバいん?

 てか、何があったん? その辺りをゆるっと紐解いていきたい。


 前置きとして、一九二〇年代のアメリカは空前絶後の好景気だった。

 直前、第一次世界大戦の激戦区となったヨーロッパ各国は、勝っても負けてもボロボロだったが、そこに間接的に関与したアメリカは戦争需要で莫大な利益を得た上、戦後の復興支援でもじゃんじゃん儲けていた時期だ。

 箸が転がっても可笑しいお年頃の如く、何をやっても売れるし儲かるし、カネが有り余りすぎて何に使おうか迷うくらいの絶好景気だった。

 この期間を後世では花の二十代ならぬ「狂騒の二〇年代」などと表現している。


 有り余るカネがどこに流れたかというと、株、投資、投機にじゃんじゃん流れた。

 猫も杓子もみな投資。土地を買い漁り、転がし倒し、株を持てば勝手に資産が増えていく。証券会社が証券会社を立ち上げて、さらに投資が投資を呼んだ。

 いわゆるバブル状態である。

 ニューヨーク証券取引所は世界最大規模の株式取引所として君臨し、その中心にウォール街がでーんと鎮座していた。

 この当時、株は恒久的に上がり続けるものだと大多数が信じていて、持てば勝ち組だと認識していた。だから、借金してでも株を買うような人たちが一定数以上存在した。


 実際、二〇年代後半からダウ平均は急上昇し、六年で五倍を軽く突破していた。特に悪夢の前年、一九二八年から二九年にかけては異常な急成長を見せた。

 カネが有り余っていたから始めた投資だが、カネを注ぎ込んだ結果、注ぎ込んだ以上に(ふわふわした期待で)株価が暴走をはじめ、カネが無いのに更にカネを突っ込むという狂った金銭感覚が市場を横行する。


 この異常事態は必ずしも実体経済を反映していたわけではない。

 何をしても売れるからじゃんじゃん作りまくった諸々の製品も、異常高値の供給過多では在庫があぶれる事態になる。在庫があぶれる=売れない事態になる。売れなければ利益は出ない。出ない利益は市場に跳ね返る。

 暴走していた株価は、ある日やっぱりエンストを起こす。


 昭和四年(一九二九年)九月三日にダウ平均は最高水準を叩き出し、その後一ヶ月でいきなり十七パーセント下落した。一時期ちょろっと回復したと思ったら、あれよと奈落の底へ落ちていく。

 昭和四年(一九二九年)十月二十四日 木曜日。

 取引開始早々、記録破りの一二九〇万株が売られまくって半日足らずで株価は五〇パーセント以上下落した。

 ウォール街大暴落の始まり——暗黒の木曜日ブラックサースデーと言われる所以である。


 あまりの緊急事態に、翌日、金融機関のお偉いさんが打ち集い緊急声明を出す事態になった。

 平たく叩くと「市場維持のために自分らが買い支えするよ」という感じの内容だ。(一九〇七年十月にもアメリカは同じような超ヤバい不況に見舞われているのだが、その時はこの方法で即日対処できた)

 大都市はこれで一旦ほっとするのだが、現代のように情報伝達がリアルタイムでできない時代だ。地方は混乱したまま、その混乱がカウンターパンチとなって更なる悲劇を生んだ。


 悪夢は終わらず週明けの十月二十八日、地方から波及した売り注文に市場は再び大混乱を来す。

 翌二十九日も暴落を続け、一六〇〇万株が投げ売りされた。ダウ平均は十三パーセント下落した。


 気が付くと、一九二九年から一九三四年までの五年間で株価は約九割下落していた。(一億円の資産が一千万に変身とか意味分からなすぎて禿げ散らかる)

 それでも手元にカネが残る人は良い。

 借金してまで投資に突っ込んだ人たちはこの世の地獄を味わった。

 失業率は二五パーセントを超え、四人に一人が無職を余儀なくされ、住む家もない、食い扶持もない。そして、株価の代わりに犯罪率が急増する。(株価と失業犯罪率は反比例して連動する傾向にあるという統計がある)


 アメリカが盛大にずっこけたことで、何とか持ち直しかかっていたヨーロッパ経済が軒並みぶっ飛ばされた。

 特に莫大な借金を抱えていたWW1敗戦国ドイツは完全にブチ切れ「は? 賠償金なんぞ誰が払うか、ボケぇ!」とナチるきっかけになり、海の向こうでは、ただでさえ日露戦争で莫大な借金を抱えていた日本経済も塵芥の如く吹き飛ばされた。頭上では一人無傷のおそロシアがニッコリしているという最悪の事態だ。


 この狂騒の果てに、欧米では自国優先ファースト主義に極振りしていき、日本は軍国主義へと傾倒していく。

 その先に待っていたのは次なる戦争需要だった。

 戦後、これらの反省を踏まえて国際化が進んでいくのだが、その国際化が進んだ現在もまた世界規模で経済難に見舞われているという現状だ……とりあえず、経済立て直しのための戦争だけはしたくないなあと心の声がこぼれる筆者だ(溜息)

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