十月十九日 大丸呉服店がバーゲンを導入したようです

 大丸呉服店(現、大丸松坂屋百貨店)がバーゲンセールを開始した日。

 日本初かどうかは諸説あるため断言できないのだが、とりあえず大丸がバーゲンを行ったのは明治二十八年(一八九五年)十月十九日だったそうだ。


 良いものをお得に買いたいという消費者心理は古今東西変わらないらしい。呉服店らしくセール対象品は主に衣類中心だったようだが、盛況だったもようだ。


 こんにち、バーゲンとはバーゲンセールを指す言葉で、その定義は「安売り、特売、掘り出し物市」といった意味で概ねまかり通っている。

 日本には英語経由で入ってきた外来語だが、その語源を辿ってみると古フランス語「bargaignier(=値切る、交渉するの意)」に由来するのだが、言語学的にはさらに遡るとゲルマン祖語の「borgan」=現代英語 borrow(貸す、借りる)が元になっているとする説がある。

 ある意味、安価なレンタル業のようなものが発端だったのかもしれない。言葉一つでも当時の生活の一端が垣間見えるようでなかなかに想像が膨らんで面白い。


 話をバーゲンに戻す。

 いわゆる近現代的なバーゲンは明治時代に形を成したようだが、江戸時代にも「お買い得」という購買心理は当然あった。


 当時の買い物は一般的にツケ払い(とりあえず簿記的に「買掛」としておこうか)だったのだが、店側にしたら売上金の回収までにタイムラグ(売掛)が発生するため、必ずしも安定した商売とは言えなかった。

(もっとも、掛けスタイルはB to B型商売なら現在進行形でまかり通っているため、商売の本質としてはさほど変わっていないと言える)


 それはさておき、一般顧客に対しても売掛していると、当然ながら踏み倒す輩が一定数出てくるし、売るのも売り上げを回収するのも訪問形式では商売として効率が悪い。


「うん。ツケ払い方式やめよ。ついでに訪問販売もやめよ」


 そう言い出したお店があった。越後屋さんである。

 店頭販売に切り替えて、どんな顧客にも一定した価格での物販を開始した。

 お得意さん割引をやめた代わりに、みんな平等に「お安くしとくよ、ただし現金払いで」という今日の買い物スタイルを導入したわけだ。

 その場で売上金を回収できるし、売値も安定して計算できるし、運搬コストも削減できた。店舗維持費と現場スタッフ人件費は発生するが、個別訪問販売に比べて在庫管理もしやすいし、顧客の回転率も良い。総合的に鑑みたら運営コストと売り上げが十分に折り合った。


 で、お客さんにしたらどうかというと、おそらく一部に割りを食った人はいるだろうが、自分が欲しいタイミングで欲しいものを分かりやすい安価で購入できる——結果としては大成功だった。

 これがお江戸のニューノーマルになっていき、やがて今日に繋がるわけである。

 時代が移り、西洋化が進み、生活スタイルもある程度安定してきたタイミングでカンフル剤の如く導入されたのが「バーゲンセール」である。

 マンネリ化した集客と購買意欲を大いに刺激する物販スタイルもまた、昨今の定番となっている。(何だったら、店側としたらバーゲンするための理由を三六五日探している状態だ)


 そんな経緯もあり、本日は「バーゲンの日」である。(世間的な認知度は低いが)


 余談だが、バーゲンと似たような扱いでクリアランスという言葉も目にする機会が増えた。

 厳密に二つの違いを挙げるなら、「バーゲン」は前述のとおり「安売り、特売」の意味合いなので、一定期間だけ値段を下げる販売スタイルであり、一方の「クリアランス」は在庫一掃処分、売り尽くしと区分されている。

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