十月十五日 グレゴリオ暦始めました

 本日はグレゴリオ暦二〇二一年十月十五日である。

 現行太陽暦(新暦)として、今から四四〇年ほど前に改暦されて今日に至る世界標準の暦だ。


 遡って天正十年(一五八二年)十月十五日。

 場所はキリスト教カトリック総本山イタリアはバチカン市国。

 第二二六代ローマ教皇グレゴリウス十三世によって、旧暦を廃止し、新暦を導入することになった。

 旧暦とはユリウス暦のことである。

 ユリウス暦は、ユリウス・カエサルによって古代ローマの暦として導入され、紀元前四十五年ごろから一五八二年まで千六百年余り使用されてきた太陽暦だ。(それまでのローマは太陰暦=月を基準にしてたよ)

 カエサルは「太陽暦」を古代エジプトから持ち帰ったと言われている。


 ばくっと掻い摘むと、エジプトでは昔から定期的にナイル川が氾濫を起こしていた。氾濫を起こすたびに肥沃な土を上流から下流域の広範囲に運んでくるので、エジプトにとってナイル川の氾濫期を正しく予測することは、とても重要なことだった。


「太陽と一緒にシリウス(おおいぬ座一等星)が東の空に上がるとナイルが氾濫するで!」

「しかも、シリウスと太陽が同じタイミングで東の空に上がってくるん、ほぼ三六五日間隔やで!」


 そのことに気付いた古代エジプト人は、「太陽を基準に季節を把握し、三六五日を一区切りとする」概念を持つようになる。

「ほぼ」と表現するのは、厳密に計算すると一年三六五日には小数点以下の微妙な誤差が生じるからである。

 その事実には古代エジプト人も気付いていた。


 で、どうしたかというと、一年を三六五・二五日に換算し、四年に一度、一日を足した。いわゆる「閏年」である。

 この算式に感心したカエサルがローマに持ち帰ったことでヨーロッパ全土に太陽暦が浸透し、その後千六百年もの間、ユリウス暦として使用され続けてきたというわけだ。

 ただ、千六百年も経つとユリウス暦の欠点がはっきりと浮き彫りになった。四年に一度、きっちり一日増やし続けると、日にち換算で毎日十一分ずつ一日が長くなっていた。積もり積もって千六百年経つと、十日程度、季節がズレていた。


 たった十日じゃん? と思うじゃん?

 キリスト教世界では、それは一大事なのである。


 四月四日のイースター回でも触れたが、キリスト教徒にとって二大超重要行事である「イースター(復活祭)」と「クリスマス」。


 イースターは「春分の日を過ぎた最初の満月から数えた最初の日曜日」という変則性を持っている。

 そして、イエス・キリストが生まれる前から導入していたユリウス暦で「春分の日は三月二十一日である」と定めていた。

 千六百年間で十日もズレたら、そのうち「イースター」は夏になり、秋になり、冬になる……いや、それはあかん。あかんどころの話じゃない。


「暦計算見直すぞ——!」

 その音頭をとったのがグレゴリウス十三世だった。


 で、どうしたかというと、基本的な「閏年」という概念は踏襲しつつ、増えすぎる日数を更に微調整する。

 実際の一年(太陽観測による)はおよそ三六五・二四二二日なので、四百年単位で三日間減らすことにした。


「百の倍数年のうち四百で割れない年は閏年やめよ(=平年)」


 百の倍数年——つまり一五八二年時点から未来を見ると、一六〇〇年、一七〇〇年、一八〇〇年、一九〇〇年、二〇〇〇年、二一〇〇年、二二〇〇年……となる。

 ユリウス暦では、これらの年次は全て閏年だった。

 しかしグレゴリオ暦では、これらの年次のうち四百で綺麗に割れる一六〇〇年と二〇〇〇年は「閏年」とし、他は「平年」としたわけだ。


 式にすると分かりやすい。

 一年間の平均日数=365日+(97/400)日=365・2425日。


 ユリウス暦では三六五・二五で換算していたので誤差が大きくなったが、グレゴリオ暦では随分と改善されて実測に近付いていることが分かる。


 つい百五十年ほど前まで太陰暦(月)で一年を計算していた日本では、太陽暦を導入したことによって明治五年十二月二日の翌日が、明治六年一月一日になるという現実世界で不可逆的なタイムリープを実現していたりする。

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