九月十八日 満州鉄道を爆破した日
昭和六年(一九三一年)九月十八日、当時、満州と呼ばれていた地域の
これはもちろん陰謀で、実行犯は当時満州に駐留していた日本軍(関東軍)による該当地で軍事行動を起こすための自作自演であった。なので、鉄道運行そのものには影響が出ないよう爆薬の量などは、あらかじめ入念に計算されていたようである。
アジアの大国、清が覇権を失い、欧州列強+アルファ日本によってケーキカットされてまくっていた中国大陸だったが、満州を足掛かりに日本は更なるケーキカットを推し進めようとしていたわけだ。
折しも、当の中国のみなさんは身内同士で大喧嘩の真っ最中だったので、北の端の方で隙を突いた形でもある。
実際のところ、これは限りなくアウトの国際条約違反だったが、何がなんでもグレーゾーンに押し込めるため、自作自演で爆破した鉄道は「中国はんに、やられましてん! わてら仲良うしよう言うてましたのに」と国際社会に向かって大嘘ぶちかました。
嘘つきは泥棒の始まりと習わなかったのか……と、今だから言いたいトンデモ発言だ。
当時、全中国とは上手くいかなくても、満州界隈で力を持っていた張さん父(
その張さん父をぶっ飛ばした挙句の大嘘である。この事実は太平洋戦争が終わるまで公式に伏せられていたそうだが、張さん息子(
日本が泥沼の戦争へと突き進むきっかけとなった事件だ。
一応、日本側からも事件の背景を考察すると、ここまで国外の土地に執着した根底に一九二九年に世界を震撼させた経済危機——世界恐慌に紐づいていく。
資本主義国が次々と自滅を余儀なくされる中、発端となったアメリカは政府の介入(ニューディール)が一定の効果を発揮し「まじ助かった〜」って言っていたし、アメリカの元親分イギリスは俺様時代に漁りまくった植民地からの収入で「何とかなりそうやわ〜」って言っていた。
他の欧州諸国も植民地からカネと資源を巻き上げられるから、致命傷は避けられるような物腰だった。
そんな状況の中、日本の頭上では、共産主義国おそロシア(ソ連)が世界中で一人ピンピンしていて、何なら中国含めアジアを根こそぎ掻っ攫おうかという勢いだ。
日本だけだった。
向こう五年分とも言われる国家予算を注ぎ込んで、痛い目見ながら辛勝したはずの日露戦争で、当時の国際条約から鑑みてもロシアから正式にぶん取ったはずの中国ケーキカット地(遼東半島)は、欧米から待ったをかけられた挙句、取り上げられ、ろくな賠償金も取れなかった。
資源のない国、日本は勝ったはずなのに、なぜか瀕死の状態である。
当時のきな臭い国際情勢、そして戦略的にも満州(というか中国)は日本にとって、ある種の生命線とも言える重要な土地だった。だからこそ執着した。
その上、国内では経済政策でやらかし「昭和恐慌」と呼ばれる貧乏どん底生活を余儀なくされていた。
世論は不満だし、満身創痍で戦った軍人は「軍縮条約」の煽りで勝手に予算を削られ、邪魔者扱いときた。
「政治家、何様やねん! やっとれんわ!」
国際協調(欧米とは敵対したくない)という政策路線だったが、軍人にしたらたまったもんじゃない。この時、世論と反抗的な軍部を抑えられないと踏んだ内閣(第二次若槻内閣)は、早々に諦めて解散総辞職している。
この次に発足したのが犬飼内閣だ。
元々、若槻の取りまとめた「軍縮」には否定的だった犬飼だが、満州でやらかした軍部のやりようにも否を突きつけたことが、犬養暗殺(五・一五事件)に繋がったと教科書では説明されている。
しかし、国内クーデターの本来のターゲットは若槻内閣であった。それが総辞職で消えた途端、犬飼内閣がロックオンされたのは何とも不可思議感が拭えない。
まして、「関東軍アウト——(デデーン)」が理由で犬養一人を狙うなら、まだ分かるのだが、内大臣官邸(今で言う宮内庁外局)や政党本部、銀行や変電所の襲撃(首都圏が停電したよ)は、些か度が過ぎている気がしてならない。
極限状態に追い込まれた人間は、平常では思いも寄らない行動に走ることがあるが、それは「国」も同じことだとつくづく思う。
この時の判断を誤ったこと(と言っても、何が正解かなんて実際は誰にも分からない)が、この後、日本をずるずると太平洋戦争という地獄まで引き摺り込んでいくのである。
その発端となった事件、それが満州鉄道爆破事件——柳条湖事件だ。教科書ではこの後の展開を「満州事変」と習う最初の一歩である。
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