八月十三日 国際左利きデー
平成四年(一九九二年)八月十三日に、イギリスに拠点を置く「左利きクラブ」によって制定された国際デーである。
さすがイギリス、ヘンテコリンな集まりが真面目な顔をして国際的な発言権を持ってるんだなと感心する。
かくいう私も左利きだ。
生まれてこの方、右利き仕様に溢れた世界で暮らしているから「左利きにも愛の手を」と言いたい気持ちはよく分かる。
駅の改札では定期券をかざそうとすると自然と昭和の仮面ライダー変身ポーズをとるハメになるし、小学校の書き方の授業では止め跳ね払いに苦労したし、注ぎやすさを追求した変形おたまは注ぎ口が逆になるため非常に使い勝手が悪い。
宴会の席など、箸もフォークもナイフも全てが逆になるため、隣の人と肘がぶつかるから、テーブルの左端は定席だ。
左手で一般的な二つ折り財布を開けばお札入れは下を向くし小銭は零れ落ちる。
カッターナイフを左手でキリキリ出したら刃は上下逆さまだ。
包丁だって左手で持ったら刃は向こう面についている。切りづらいったらありゃしない。
圧着式のペリペリ開く葉書類だって開く方向は右手の親指を基準にしているから左利きは地味に難儀する。
ネジを回す方向もまた然りだ。
右手で時計回りに回すよう設計されているから、左手でネジを回すと手首のスナップを逆に効かせることになる。左手で反時計回り(回しやすい)に回して「あれ、ネジ入らーん。あ、逆や」は割とよくある光景だ。
電球を取り替える時にも同じ現象が起こる。
そんなわけだから、右利きだろうが左利きだろうが関係なく使えるユニバーサルデザイン仕様は非常にありがたい。
以前、左利き専用ハサミというものを使用したとき、私は思わぬ落とし穴を経験することになった。
普段身の回りに溢れている右利き仕様のハサミを左手で使うという生活に慣れきっていたため、盲点だった。
左利き専用ハサミは刃の重なりが右利き仕様とは真逆になる。左利き仕様を左手で使うと、右利きハサミに慣れきっていた私の手は紙を切ることができなかった……。
刃が逆についているため、そのまま切ろうとすると紙がフラットな面と面の間に挟まり、折れ曲がってしまうのだ。自分で驚いた。
知らずと力の方向と加減を「左手右利き」仕様に調整していたらしい。
(ハサミは親指に力点を置いて刃を若干斜めに倒して進行方向と角度をコントロールするが、右利きハサミを左手で使うと力点は中指側になり刃を倒す方向が逆になる。親指は力半分で添えてる感じ)
こうやって羅列すると、まるで左利きにとっては良いこと無しみたいなってしまうが、左利きは左利きなりに楽しく生きているのである。
余談だが、習字や書き方は面倒ごとが多いので、字だけは右手に矯正した(止め跳ね払いはやっぱり右手が書きやすい)。おかげで両手で字を書けるようになったし、左手では左右反転した鏡文字だって書ける(特に役には立たないが・笑)。
料理の途中で左手が疲れたら、右手にバトンタッチしてかき混ぜたり捏ねたり、適度に休めて案外楽だ。ハサミだって両手で使える。
左手あるあるで盛り上がるという小さな楽しみもある。そんなあるあるが一日でも脚光を浴びたら幸せなのだ。
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