七月五日 クローン羊ドリーの誕生日
平成八年(一九九六年)七月五日、イギリス・スコットランド地方のとある研究所で哺乳類の体細胞を培養した羊が初めて誕生した。
一時期メディアを大いに賑わせたクローン羊のドリーである。
技術的な進歩の反面、この事実は倫理面において、こんにちも議論の的になっている。当時六歳のメスの羊の核細胞から誕生したドリーは平成十五年(二〇〇三年)=六年後に安楽死を迎えることになり、死後は剥製がスコットランド博物館にて展示保管されている。
これだけを記すと、ドリーがただただ可哀想ということになるが、六歳のメス羊からクローン技術で誕生したドリーは、科学雑誌ネイチャーに寄稿された論文によると、生まれた時から染色体に老化現象が見られたそうだ。
要するに誕生(=スタート)が既に六歳だったことになる。
通常、この種の羊(フィン・ドーセット種)の平均的な寿命は十年から十二年程度あるという。
その後、五歳(普通の羊なら十分に若い個体)で関節炎を発症し、この事実がまた哺乳類へのクローン技術転用の疑義を問う事態となった。
簡単にまとめると、「哺乳類(ゆくゆくは人体)にはクローン向かないんじゃね?」ということだ。
しかし実際には、ドリーの例に続いて馬や牛などを対象にクローン技術は実験的に転用され続けることになる。SFが現実味を帯びていくわけだ。
ドリーオリジナル(という言い方には若干の語弊があるが)は、羊によくある肺疾患が直接的な原因で安楽死を迎えることになるのだが、クローン羊ドリーと同じ体細胞から培養された更なるクローン個体(娘たち)は二〇〇七年に誕生し、特に疾患もなく初期老化の兆候もなく九歳を超えても元気に生存したという。
当時、衝撃を持って世界中を駆け巡った一大ニュースであったが、受精卵の核を使うクローン技術そのものはドリー以前から既に実験を繰り返しており、日本国内にも同じ原理で一五〇頭以上の牛が誕生していたりする。
しかし一方で、米仏両大統領による「人間へのクローン技術応用禁止」が即座に訴えられたことも記憶の片隅に留め置いておかなければならない非常にデリケートな分野なのだ。
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