六月十三日 おかえり、はやぶさ!

 平成二十二年(二〇一〇年)六月十三日、地球からばっくり三億キロほど離れた宇宙にある小惑星「イトカワ」から、惑星探査機はやぶさが初めてのおつかいを終えて無事に戻ってきた日。


 打ち上げ自体は平成十五年(二〇〇三年)だから、およそ七年もの歳月を経て、のべ六〇億キロの宇宙航行を達成したことになる。


「イトカワ」は直径およそ百六十メートル、長さおよそ五百三十メートル強程度あり、東京タワーより大きく、スカイツリーより小さいというサイズ感の小惑星だが、毎秒二十五キロ余りの速度で四十六億年前からブイブイ言わしているので、一応「万が一ぶつかると危険なやつ」に分類されている。

 そこに約五ヶ月間滞在し、観察とサンプルの採取というミッションをこなしたはやぶさの偉業は、映画でもお馴染みだ。


 さらっと書いてしまと何とも味気ないが、石油タンカー程の大きさの惑星の表面温度は摂氏百度をゆうに超える。そんな中、サンプル採取のために着陸を試みたはやぶさにトラブルが発生。三〇分以上も高温に晒され続けたはやぶさの心臓部である精密機器類は、おそらくこの段階で既にボロボロになっていた。


 制御不能になった機体は高速回転を繰り返し、何とか体勢を立て直したと思ったら通信が途絶え、生存が確認できたと思えば、搭載されたエンジン四基のうち三基が機能不全に陥っていた。あまりにも過酷すぎる初めてのおつかいである。


 機能不全エンジンを組み換え何とか合計で二基分の推進力を得て、さあ地球へ帰還するぞ——という時点で耐用年数ダブルスコアオーバーという、平たくいうと、ほぼ全損状態でそれでも何とか戻ってくるのである。


 地球の上空二十万キロでサンプル入りのカプセルをぶん投げ、少し遅れて満身創痍のはやぶさも大気圏へ突入する。運用終了間際に撮影された最後の写真——はやぶさ視点の地球はモノクロームがかって非常に幻想的だ。

 そして地上から撮影された燃えるはやぶさの散り際は、筆舌尽くし難い美しさであったことを今でもありありと思い浮かべることができる。

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