五月十八日 ことばの日

 カクヨムに身を置く以上、無視をしてはいけない日、その四。

 ことばと「五と十と八」の語呂合わせだ。そして、制定されたのは令和元年(二〇一九年)、新参者である。


「普段から正しい言葉遣いを心懸ける日」と改めて言われると、なぜか奥歯が痛い……あれ、おかしいな。


 言葉の語源を辿ると、どうやら「古今和歌集」に行き着く。ばくっと平安時代、土佐日記でもお馴染み紀貫之きのつらゆきによる冒頭の一文は、次のとおり書かれている。


「やまとうたは、人の心を種として、よろづのことの葉とぞなりける」


 やまとうたとは、和歌のことだろう。あえて大和歌と書いてもあながち間違いではないか。

 人の心情を種に例えて、そこからあらゆる物事が芽吹いて枝葉となる。言が葉になるから、言葉。改めて言われると実に意味深だ。

 なるほど確かに、紀貫之の詠む歌は日常生活における心情の切り取り方がさりげなく、それでいてピンポイントを突いてくる。


「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞむかしの香に匂いける」

(あなたがわたしをどう思っているかは分かりませんが、梅はむかしのまま変わらず咲いて香っていますよ)


 小倉百人一首第三十五番のこの歌は、懇意こんいにしていた宿の主人に冷たくあしらわれた紀貫之が、庭に咲いていた梅を見て詠んだ一首だとされている。

 怒鳴り散らすでも喚き倒すでもなく、本来「言葉」とは実に美しく風流であるべき、と暗に示されている気がする。

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