第2話:殺人者と狂喝者――第四の壁の密室
倉阪鬼一郎氏に捧げる!
* *
「客観的にみて、腹を立てる読者がいてもおかしくない、やや唖然とさせられる真相ではあります」
――――ミステリ書評サイト『黄金の羊毛亭』のジョン・ディクスン・カー『殺人者と恐喝者』書評より。
* *
第二章「殺人者と
狂喝者」
* *
「ほいて、最近のアレはどうなんや」
「お爺様、なんの事だっちゃ?」
「キャラ離れろ、イラッとすんねん」
「はい」
「アレや。現実のほうの仕事やがな。まだ梅田のトルコやりよるわけか? トルコ旅行の事ちゃうでぇ」
「あ、はい。まだ、一応やってますね……」
「まぁまぁまぁな。それが悪いことやとは俺は思わん。職業差別はせん主義やからなぁ。男に対して奉仕するという仕事に、きちんとした情熱とプロ意識をもっとるいうなら、全然かまわんがな。将来は泡姫シルビアか、あるいはソープ嬢探偵くるみ目指してもええがな。現実の世界は色々しんどいこともあるけども、トルコ嬢や、デリヘル嬢の方が、国会でぐうたら寝とる政治家に比べりゃ全然仕事しよる方やで。今の政治は狂っとるからのぉ!」
「あの……お爺さんの方が狂っていますよ」
狂っとるやと、この小娘。アホぬかすな! 久々に年寄りくさいこというたんや。設定がいきとる証拠や。
「お前がやりよる仕事は泡で人をイかせる事やけど、政治家がやりよるんは金を泡に変えよるようなもんやでぇ」
狗やしい、フェル子が完全にキャラを離れ尊敬の眼差しで俺を見とるわ! ガハハ!
「お前がやりよる仕事は人をヌルヌルさすもんやけど、政治家共はヌルヌルつるんどるだけやぁ!」
「あっ、すみません。……えーと、ちょっと一つ目の泡のくだりは良かったですけど、ヌルヌルの下りはあまり……かかってませんよね……巧くないですよね?」
「すまん。一発目が良かったんでぇ……ちょっとぉ……調子乗りすぎた」
「えー今日から、この
「こんにちわぁ~! あちきの名前は
* *
狐目の、いかにもな読者受けしそうなキャラ、アンリに俺は聞きだしたいことがあった。
「ほいて、アンリさん。アンタはキャラ演じるん離れて、リアルやったらどんな事しよんや?」
「はい?」
狡賢い顔で言うよる。ガハハ! 俺はアンリに興味を示した。ついでに隣のフェル子を指さして、
「こいつは梅田のトルコで働きよるんや。俺は……まぁ、今は言えん! で、アンタや。普通おらんやろが。小学生でパリ警視庁の判事んなって、ほの後日本に帰国子女して、司法試験一発合格。高校生で大阪府警の本部長補佐て! アリン・バンコランの子孫いう設定も正味、もう古い思うで! ルパンの孫や金田一の孫もおるからのぉ! 明智小五郎の孫なんか、
「えぇ~と、あちきは生きた人間なんデスがぁ~」
狐のようにするどぉ尖った目! 一人称があちき! 語尾は~デス! 出た! いかにもなキャラ設定! これからラノベを書く
「あ、アンリさん良いですよ。今はキャラから離れても。暴露タイムですから」
「す、すいませぇ~んデス。あちきは最近、外国から来たのでわからないんデスが、あの、お二方は何を言ってるんデスかぁ~? キャラを離れる? えーと……読者ってどういう意味デスかぁ~?」
「えぇ~と、あと、フェル子さんは聞くところによると、「~だじょ!」が口癖と聞いていますが、それやめちゃったんデスかぁ~?」
「……」
「……」
犯人も登場してへんのに、俺とフェル子は目を見合した後、またアンリのほうを見た。困っているという顔である。もしかしてコイツは自分が小説……というのも糞味噌な、作者の脳味噌ウンコ、ババ、茶色のカレーによく似た排泄物垂れ流しの中におる登場キャラであるっちゅぅことに気づとらんのや。
「フェル子よ、これは逆に新しないか?」
「えぇ、逆に新しいですね」
* *
狙った
猿顔のルパンよりも、犬顔のルパンじゃぁ~ボケェ~! さて……アホな事言よらんと、さっさといこ、さっさと。その死体は学校の五階にある、生物学室で発見されたんや。被害者は化学部部長やった。ズボンとパンツ脱がされて、床にゴトォーっと倒れとったらしい。
狭い部屋の中で、果ては暖房やで! おう! えぇか、おい。もうな、正味な、結構な、俺も六十七歳でな、ミステリ色々読みよったくちや。でもな、もうな、正味な、結構な、もっと言うぞ、結構結構結構正味正味正味な! 言うぞ! トリックの肝言うぞ! 氷やないかい! こんなもん、完全に死体の腕と腰とかかとを氷で固めて、暖房の熱風で溶かしましたいうトリックやないかい! 時代錯誤か! ええかげんにせえよ! 昨今の目の肥えた読者いう、毒舌吐く俺もバカバカしぃなってきたわ! 氷をどう使ったか? 簡単なやいかい! えーと……。
「おぅ、フェル子にアンリよ」
「なにだっちゃ? お爺様」
「なんデスか?」
「……まぁ、今は虚構の中や。そのイラっとくる語尾もええわ。どう、氷と……バイアグラを
「簡単だっちゃよ。ただ、このトリックは別のトリックが使われていないところがミソだっちゃよ!」
「どういう事や?」
「お爺様は要領が悪いだっちゃね。良いだっちゃか? まず、犯人がこの生物室にて使用した密室トリックは簡単だっちゃ。まず被害者の部長にカプセルに入った毒薬を飲ませるっちゃ。それと同時にバイアグラを飲ますんだっちゃね。そしたら、時間的にバイアグラの方が先に胃で溶けるっちゃよ。バイアグラが溶けると、クエン
「いや、ちょっと気持ち悪いからええってええって! もう推理せんでええって!! 今日晩飯、ポークピッツやねん!」
「勃起した『それ』は、ドアの鍵の役目を果たすちゃよ! 副部長がドアをドンドンした時に開かなかったのは男性器が引っかかっていたっちゃからよ。図にすると、
https://pbs.twimg.com/media/D9CC3nRUYAAXI6A?format=jpg&name=large
こうだっちゃ! バイアグラという勃起時の男性器の硬さは高脂肪症や高血圧を有無ともせず、
「でも、違うんだっちゃ! お爺様、このトリックよりも、メタなトリックのほうが簡単だっちゃよ」
「メタとはどういう意味デスかぁ? フェル子さーん」
狸と狐の化かしあいか? だが俺は気付いた。今更だが、おぅ、読者共よ、ボケかけてきとんちゃうかとか抜かすな! ここまでくると、気付いてもうたがな! 今までの改行部に!
狂喝(きょうかつ)者
犯罪者
狂っとるやと、この小娘。
狗やしい
獅子(ライオン)のような
狐目
狡賢い顔で言うよる。
狐のようにするどぉ尖った目!
犯人も登場してへんのに
狙った獲物
猿顔のルパン
狭い部屋
獨ごった瞳
狸と狐の化かしあいか?
犯人は……って、もうええわい! いちいち改行してスペース開けんな! ボケェイ! なんで犯人はこのメタなトリックを使わんかったんや。「
「気付いたようだっちゃね、お爺様! そう、この犯人はメタなトリックを使おうとすれば使えるのに、作中で完結する密室トリックを使った。つまり作中の人物であるということを知っている、我々、副部長は犯人では無いっちゃ! 犯人を絞る方法は、まだまだあるっちゃ! 被害者死亡時にアリバイが成立する人物だっちゃ。即ち、自身が作中の登場人物ということに気付いていないかつ、アリバイが成立する人物! アンタだっちゃよ! 番場古アンリ!!」
フェル子がアンリに対して指を突きつけた。おっ! 戻った。「
「ぐぬぬ……、ふぅ……。はい、犯人はあちきデス。あちきはあの化学部部長――名を
「では、署までご同行願います」
止めるなよ! 警察。こっからが、異常で異形な動機話すところやろが! そんな俺の思考とは関係無しに、
「終わったちゃね。
いやいやいやいや、〆るな! 〆るなや! ボケぇ! 多分こっからアレやでぇ。アンリの動機は自身が、作者が酒を飲んで脳内垂れ流しのウンコ文章を『小説家になろう!』辺りのサイトに書き込んで、でも自分は作中人物に気付いていないという苦悩と共に、作中人物に気付いていた科学部部長の一鶴にそれを教えられ、アイデンティティーの崩壊とか色々あったはずなんよ。なんでそこで〆るの!? なんでそこでぇーー。
獺《かわうそ》! やなかった、かわいそ! って――もうええわ!
* *
――――おぅ作者よ、なんで俺らは『ここ』に『存在』しとるんや?
――――なんで俺らはギャグをやらんといかんのや?
* *
<了>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます