溶けてく季節へ

 風に押された僕は気がつけば月のような表情をする海琴の前にいた。表面は明るく見えるのにどこか翳りがあるように見える。海琴の背景は真っ白と真っ青で埋め尽くされていた。

「久しぶり、私のこと覚えてる?」

新しい風は吹きはしない。ただ、ただ僕の背中に重いレンガが積まれてゆくようで僕の心は黒ずんだ。忘れたかったことが僕の中で暴れ始めた。僕はずっと、ずっと目の前の惨劇を見て見ぬ振りしてきたからだ。君はずっと忘れたくても忘れられない人だった。

 「覚えてるよ。久しぶり。」

その言葉の後はあまり思い出せない。ただ、この日から僕は罪を贖うようにと毎日海琴と出会って色々話した。自然とあの頃の話は話題には上がらなかった。毎日毎日毎日毎日君の瞳を何度も見た。大きな太陽が夏風を避けてきた僕を責める。すれ違った足跡を見失うなと言わんばかりに暑くなってきた。踏み外した君を守れと神様が言っているようで謎の使命感を持った。


それからも月日は流れた。僕らが見るべきだった景色が過ぎ去ってゆく。

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