かふぇろまんちっく
@yumeoni
第1話
ダンスが終わる。燎は紀墨しおりの手を放そうとする。その前にしおりは自ら手を素早く引き、お疲さまのアイコンタクトをして離れていった。ほんの僅かだが、しおりはいつも燎よりも手を放すのが早い。そのせいでダンスが終わってからもしばらくの間、燎はしおりの手の感触の残像から抜け出せなかった。しおりよりも早く手を放そうと意識しても、そんな燎のもくろみに気付いているかのように、しおりは必ず燎よりも先に手を放してしまう。
「紀墨さんはどうする? 今日行く?」
タオルで汗を拭うしおりに同じ2年で経済学部の清瀬梨里が声をかける。
「ごめん。今日はこれからバイトだから」
「そっか。ダイニングバーだっけ。大変だね」
「ドレス代、稼いできます」
笑顔でそう言って更衣室に向かうしおりは、最後に燎の方を見てしっかりとアイコンタクトをする。そこに深い意味はない。パートナーは信頼関係が大事。しおりはそれを行動で表しているに過ぎない。燎も笑顔でお疲れと言ってしおりを見送る。しおりがいなくなると途端に場の空気が冷えた気がして、燎は無意識の内に腕をさすった。
「碓井くんは?」
「え?」
「飲み会、行く?」
そう聞いたくせに、清瀬の目には何の期待も浮かんでいない。
「いや、今日はいいや。ちょっと行くとこある」
「そう」
それだけ確認すると、清瀬は舞踏研究会の他の仲間との談笑に戻った。それを横目に、燎も更衣室向へと向かう。
かふぇろまんちっく。大柄な外国人なら身体を縮こめないと入れないような小ぶりな入口の上に、店名の緑色のネオンが妖しく輝いている。壁や窓ガラスを覆うようにたくさんの緑が生い茂っていて、鬱蒼としているようでありながらどこか調和も感じさせた。
白い入口のドアを開けて中に入ると、鈴が鳴った。外観から想像するよりも店内は広々としている。
「いらっしゃませ」
メイド服のようなものを着た若い女の店員が気付いて声をあげる。チェーンのコーヒーショップにありがちな分かりやすい笑顔は浮かんでいない。ほとんど無表情といってもよかった。
「お一人ですか? 奥のカウンター席どうぞ」
女店員が手を指し示した正面奥のカウンターに向かう。店内の席の配置は雑然としていて、所々巨大な観葉植物で仕切られている為、全貌を把握するのは容易ではなかった。薄暗い店内に、間接照明であるランプの青や黄や緑色の光が輝いて幻想的な空間を作り出している。客の入りは3分の1ほどで、静かだった。
カウンターの向こう側には、マスターらしき髭面の男が立っている。30代後半から40代前半くらいだろうか。耳の下から顎にかけてびっしりと生えた髭は、黒々と輝いていた。
「どうぞ」
マスターはカウンター席を手のひらで指し示す。カウンターには他に客はいない。
座ると、テーブルの上にはメニュー表が置いてあった。珈琲にこだわる店らしく、ブレンドの他にエチオピアやコロンビアなど、珈琲の名前がずらっと並んでいる。
「ブレンドで」
珈琲には詳しくないので、読んでもよく分からない。1番上に書かれた商品名をそのまま読み上げた。
「ブレンドですね」
マスターはコップの水を燎の目の前に置いてから、カウンターの隅の奥まった場所に移動して、珈琲を入れる準備に取りかかった。
マスターの他には先ほどの若い女の店員が1人きりのようだ。店内を静かだがキビキビとした動作で動き回っている。
手持ち無沙汰だがスマホを見るような気分にもなれず、燎はメニュー表を眺めるとはなしに眺めていた。
ろまんちっくブレンド 時価とメニュー表の下の方に書かれている。店名がかふぇろまんちっくだから、ろまんちっくブレンドという名前に不思議はないものの、時価というところが気になった。
「お待たせしました。ブレンドです」
マスターが近づいてきて、コーヒーカップを燎の目の前に置く。青い花びらの絵柄のコーヒーカップで、持ち手は金色に輝いていた。そのカップの中で揺れる、どこまでも暗く、底の知れない闇のような液体。覗き込むと、自分の顔がぼんやりと映っていた。
「お砂糖、ミルクは要りますか?」
「大丈夫です」
そう答えながらも、燎は一口飲んで、思わず顔をしかめてしまう。
「苦い、ですか?」
マスターが燎の心の内を代弁するかのように言った。
「……実は、珈琲苦手なんですよ」
珈琲を入れてくれたマスターに失礼にならないよう、燎は白状してしまう。
「ほう。苦手なのに、ブラックで?」
燎は頷いた。
「珈琲の味が分かるようになりたくて。それで、暇を見つけては喫茶店で珈琲を飲むようにしているんです」
「なるほど。早く大人になりたいんですね」
「……珈琲の違いが分かる人が好き。ある人がそう言ってたんです」
「女性ですか?」
燎は頷く。舞踏研究会のメンバーと喫茶店に入ったときのことだ。紀墨しおりがふとした拍子にそう言ったのだった。しおりは珈琲をブラックのまま飲んでいて、燎はその目の前でロイヤルミルクティに砂糖を入れているところだった。
「珈琲の違いが分かるからって、いい人間とは限りませんがね」
マスターは、低い声でやや自嘲気味にそう言う。確かにそうだ。珈琲の違いが分かるからといって、いい人間とは限らない。ただ、あの時しおりは確かに誰かを思い浮かべてそう言っていたのだ。燎はその誰かに激しい嫉妬心を抱いた。以来、燎は喫茶店では珈琲をブラックで飲むと決めていた。
「そうだ。この、ろまんちっくブレンドって何ですか? 時価って書いてありますけど」
燎はメニュー表を手に取り、気になっていたことを尋ねた。
「ああ、それは、ホレグスリ入りの珈琲のことです」
ホレグスリが惚れ薬のことだと気付くまでに少し時間がかかってしまい、燎はリアクションを取るのが遅れた。
「値段は、それを飲む人と目の前にいるお相手の関係性によって決まります。付き合い始めたばかりのカップルなら惚れ薬の効果も乏しいので、普通のブレンドとほとんど変わらないでしょう。付き合い始めてから時間が経ち倦怠感を抱いているカップルなら、千円とか二千円余分にかかってしまうかもしれません。付き合う前の2人なら、お互いの距離が離れていれば離れているほど、値段もあがります。場合によっては一万円を超えてしまう場合も」
燎は、マスターの顔を見た。顔の半分くらいが髭に覆われていて表情が分かりづらいせいもあるが、真面目くさった顔をしていて、冗談を言っているようにも見えない。
「一万円はさすがにぼったくりでしょう。その値段はマスターが決めるんですか?」
「そうです。私の独断と偏見で。でも、それでお相手の心が手に入ったら安いものです。そうは思いませんか?」
「本当に手に入るなら、一万円でも二万円でも出しますよ」
紀墨しおりのきめ細かで滑らかな白い手を思い出す。競技ダンスを踊っている間だけは自分のものになっているあの手。ダンスが終わった途端に遠いところへ行ってしまうあの手。2年にあがり、しおりがダンスのパートナーとして選ばれたときは狂喜したものだった。だが、ダンスのパートナーはあくまでもダンスのパートナーに過ぎない。そのことが分かってからは、逆に辛くなった。
「信じるか信じないかはあなた次第」
マスターは渋い声で言う。
競技ダンスのパートナーとしての相性はばっちりだったから、変に行動を起こして関係をまずくしてしまう訳にもいかない。2年の男女はちょうど男と女が同数だったから、パートナー関係を解消したら簡単に別のパートナーと組むと言う訳にもいかないのだった。しおりは競技ダンスに大学生活を賭けていて、そんなしおりに軽率に告白して今の関係を台無しにするような愚かな真似はしたくなかった。
「飲んでみたいな」
気が付くと燎は口に出して言っていた。
「飲んでみますか?」
「でも、お高いんでしょう?」
通販番組の司会者のような口調で聞いてしまう。
「思いを寄せるお相手と飲むのであれば……。今は私しかいないので、普通のブレンドと同じ価格で提供させていただきますよ」
しおりがいないのに惚れ薬入りの珈琲なんて飲んでも仕方ない。それに、しおりがいたとしても飲むのは燎ではなくしおりの方だ。すでに燎は惚れ薬を飲んでいるようなものだったから。
だが、マスターの発する言葉には妙な魅力と説得力があり、純粋にろまんちっくブレンドを飲んでみたくなった。
燎は、目の前のカップの中の珈琲を飲み干す。冷たくなった分苦みも増して、全然美味しくなかった。
「マスター、ろまんちっくブレンドをください」
その時、マスターのまるで珈琲のような深みのある2つの目が鈍く光ったように感じた。
「いいんですか?」
「もし効果があるなら今度相手を連れてきて飲ませますよ」
「では、惚れ薬を増量して入れておきましょう」
マスターは珈琲を入れる為、カウンターの奥まった位置に引っ込んだ。手元は影になってよく見えないが、今惚れ薬をブレンドしているのかと思うとおかしかった。そんなものが本当にあるのなら、どんなにいいだろうか。
その時、客が帰った後のテーブルの片付けをして戻ってきた、メイド服姿の女の店員と目が合った。女店員は、まるで子供が店の中ではしゃぎ回るのをたしなめるような目で燎を見てきた。
そんな目で見られる理由もなかったので、燎は少し気分を害した。別に本気で惚れ薬なんてものを信じている訳ではない。ただ、マスターの遊びに付き合っているだけだった。
程なくして、燎の目の前に新しいカップに注がれた珈琲が置かれた。
「ろまんちっくブレンド。サービスでろまんちっく増量にしておきました。どうぞ」
鼻を近づけると、珈琲特有の匂いが漂っている。どこまでも暗く、深い色合いをたたえた黒褐色の液体。見た目や匂いからは、先ほどのブレンドとたいした違いは感じられなかった。
「では、いただきます」
カップを傾け、ひと口流し込む。苦い。
「甘い」燎は、思わずそう言っていた。飲んですぐは苦みを感じたが、そのすぐ後に甘みを感じた。「いや、やっぱり苦い……」
「甘さと苦さが交互に押し寄せる。それがろまんちっくブレンドの特徴です。恋とはそういうものでしょう」
燎は頷いて、また飲む。甘い。そして苦い。不思議な味わいの珈琲だった。苦みの後の甘さを味わいたくて、ごくごくと飲んでしまう。
「これが、ろまんちっくブレンド、惚れ薬入りの珈琲なんですね」
「そうです。目の前にいる人間に恋愛感情を抱かせてしまう、惚れ薬入りの珈琲です。15年以上、世界中を旅して、ようやく開発した珈琲です」
冗談かと思ったが、マスターはまったく笑っていなかった。耳の下から頬、顎へと流れていく髭が、天井からぶら下がるランプの黄色い光を反射して、まるで珈琲豆のように黒く輝いていた。
「目の前にいる人間……マスターしかいないですね」
冗談のつもりだった。燎は、笑おうとしたが、うまく笑えなかった。マスターは笑っていなかった。高い位置から燎のことを見下ろす無表情なその目には、憐れみのような感情さえ滲んでいた。
「初めてご来店されたお客様に言うようなことではないと思いますが、一応言っておきます。私は……バイです」
「え?」
「バイセクシャル」
少し離れた客席で、コップの割れるような音がした。女店員が素早く向かう。
燎は、いつの間にか口の中に溜まっていた生唾を、ろまんちっくブレンドと一緒に喉に流し込んだ。甘さと、苦みが、交互に押し寄せる。
マスターの髭が煌々と輝いていて、その光のせいでマスターの顔がよく見えなかった。
それは、風邪の引き始めに似ていた。喉が少し腫れているような気がして、痛みを感じる。声を出すと声が違って聞こえる。全身が熱く、身体中が火照っているようだ。その時にはもう手遅れで、完全に風邪を引いてしまっている。しばらくすると咳をしたり、くしゃみが止まらなかったり、という典型的な風邪の症状が現われる。
テレビのコマーシャルで、ある中年の男の俳優を見ている時のことだった。その俳優は髭が生えていた。頬から顎にかけて。その俳優から目を離せなかった。コマーシャルが終わってもなぜか気になって、スマホでその俳優の最近の活動を調べた。だが、調べても調べても燎の心は満たされなかった。本当に知りたいのはそんなことじゃなかった。また、街中で、誰かとすれ違うとふと目で追ってしまうことがあった。そんなとき、その相手は大抵髭が生えていた。
かふぇろまんちっくのマスターの突然の告白。最初は、初対面の相手に、しかもこちらは客なのに何でそんなことを言うのかと不快だった。馬鹿にされているのかと思った。あの後、すぐに店を出てずっとイライラしていた。気が付くといつもマスターのことを考えていた。気が付いた時にはもう遅かったのだ。
ダンスが終わる。燎は紀墨しおりの手を放そうとする。しおりの手がいつもよりも長く残っていて、燎はそのことにびっくりして、気が付くとしおりの手を払っていた。
「あ、ごめん」
「大丈夫?」しおりが燎の顔を覗き込むように見ている。「今日ずっとここにいないみたいだよ」
「そうかな。うまく踊れてたと思ったけど」
「うん、うまく踊れてた。でも、燎くんじゃない人と踊ってるみたいだった」
しおりとパートナーになって踊るようになり半年以上が経つが、しおりと踊るときは未だに緊張した。胸が必要以上に高鳴り、その胸の高鳴りを悟られない為に必死に練習した。でも、一緒に踊るとやっぱり緊張して、実力通りのダンスを踊ることができなかった。それが、今日は違った。身体の強ばりが解けて、しおりの動きに合わせて滑らかに踊ることができた。
「ごめん、最近ちょっと調子悪くて。今日はもう帰るね。お疲れ」
しおりの前にそれ以上いることが辛くて、燎は足早に更衣室へ向かった。
髭、髭、髭。探せば髭はどこにでもある。電車の中で隣り合う人の中、キャンパスですれ違う人の中、スマホの中。だが、それは燎の求めている髭ではなかった。髭なら誰の髭でもいいという訳ではない。
「何てことを、してくれたんですか?」
燎は、ずっと夢にまで見た髭に語りかけた。かふぇろまんちっく。初めてこの店に来たときから1週間が過ぎていた。恐ろしくて、この店に来ることがどうしても躊躇われた。だが、それも限界だった。マスターの、耳の下から顎までを覆う黒髭が照明の光を浴びて、艶やかに輝いていた。
「私は確認したはずでずよ。いいんですか、と。惚れ薬入りの珈琲であることはしっかりと説明したはずです。その上で、あなたはろまんちっくブレンドを飲んだのです。自己責任ですよ」
マスターはカウンターの向こうで無表情に珈琲を入れながらそう言う。できたての珈琲を運ぼうとしながら、この間と同じメイド服姿の女店員が憐れみの視線を送ってきた。
「あれは、本当ですか?」
「え?」
「マスターが、バイ……」
燎はそれ以上口に出すことができなかった。今までそんな言葉を口にしたことがない。
「本当ですよ」
「何でろまんちっくブレンドを飲んだ後にそんなことを言ったんですか? せめて飲む前に言ってくれれば」
「飲む前にそんなことを言うのは変でしょう。逆にあのタイミングを逃せば、私は一生あなたの前でカミングアウトすることができなかったかもしれない」
「それでいいんですよ。喫茶店でマスターが客にカミングアウトする必要なんてどこにもない。知りたくなかったですよ」
「本当に?」
マスターは燎の目を覗き込むようにして言う。少し乱れた髭の上で、円らな2つの瞳が珈琲豆のような奥深さで輝いている。
マスターが見透かしたように、それは本当ではなかった。マスターが話してくれなかったら、燎の懊悩はもっと激しいものになっていたことだろう。だが、それは、ろまんちっくブレンドを飲んですっかりおかしくなってしまった燎だからこそ思うことだった。
「正直に言います。四六時中、あなたのことばかり考えてしまいます。僕はどうすればいいんですか?」
「責任は取ります。私にできることなら何でもしますよ」
「じゃあ、僕のこの思いを消し去ってください」
「ろまんちっくブレンドの持続効果は、個人差もありますが、1週間から10日ほどです。その間何のアクションも起こさなければ、自然にあなたのその思いは消えますよ。だからもう少しの辛抱です」
安心した。でもそれとは反対の甘美さを伴った感情で胸がざわつく。
「何のアクションも起こさなければ?」
「たとえばろまんちっくブレンドをまた飲めば、あなたのその思いはより強固になり、持続期間は延長されるでしょう」
燎はハッとして今自分が飲んでいる珈琲を見た。
「安心してください。許可を得ずにろまんちっくブレンドを入れるような真似はしません。それはルール違反だ」
燎の身体から力が抜けた。これ以上マスターを恋い焦がれたら、自分がどうなってしまうのか分からない。
「また、荒療治になりますが、身体的接触によっても惚れ薬の効き目に変化が起きる可能性があります。例えば私とあなたがキスをする。惚れ薬によって一時的に私に酔っている状態でも、キスをすればすべてが分かる。キスはすべてを明らかにしてしまう。あなたと私との相性が最悪だったり、あなたが今私を思う以上に誰かのことを本当は強く思っているのであれば、キスはそれを暴いてしまう」
燎は、マスターの話を聞きながらその黒く美しい髭に覆われた唇から目を離すことができなかった。厚みがあり、潤いを感じさせる赤みがかった唇。燎は生唾を飲み込んだ。
「してみますか、キス」
マスターは酸いも甘いも経験してきた大人の瞳で燎を見る。じっと見ているとその瞳に吸い込まれてしまいそうで、燎は視線を逸らした。
「しませんよ。それにしても、何なんですか、惚れ薬って。一体どうやってこんな薬を開発できたんですか?」
燎が話を逸らしてずっと気になっていたことを尋ねると、マスターは神妙な面持ちで語り始めた。
「話は、15年ほど前に遡ります……」
当時、マスターは大学生だった。大学の社交ダンスサークルに入っていて、ダンスのパートナーである女性と実際に付き合ってもいた。競技ダンスの大会で入賞するほど相性もよく、誰もが認めるベストカップルだった。マスターの人生は、何もかもが順調に進んでいた。
「私が3年になった年でした。ある男子学生が入部してきたのです。顎のラインがシャープで、私よりも少し背が高く、髪の毛はサラサラとしていて、瞳は希望に燃えていました」
マスターは懐かしいものを見るような目で燎のことを見た。
社交ダンス未経験だったその男子学生に、マスターは社交ダンスの基礎から何から手取り足取り教えた。男子学生は社交ダンスの才能があり、マスターの指導の熱心さも手伝って急速に上達していった。
「教えながら、私の中に、それまで感じたことのなかった特別な感情が芽生えるのを抑えることができませんでした」
マスターは、男子学生への指導にのめり込む内に、パートナーと今まで通りダンスすることに興味を抱けなくなった。程なくして2人は交際を辞め、同じタイミングでパートナー関係も解消した。
足かせのなくなったマスターは、時間のすべてを男子学生への指導に傾注する。
「けれど、問題がありました。パートナーの問題です。私は、彼が他の女とパートナーになって踊ることがどうしても許せなかった。我慢できなかった。実際に、彼は私とダンスしている時の方がうまく踊れたのです。私は、提案しました」
自分とパートナーになってくれ。マスターは、男子学生に言った。だが、その提案は当然受け入れられることはなかった。当時競技ダンスは男女で踊るのが当たり前で、男同士でパートナーになったところで大会には出られなかった。
男子学生は、同学年の女子とパートナーになり、競技ダンスの大会で見事優勝を飾ったという。
「でも、私にしてみればそのダンスはパーフェクトではなかった。私と踊っているときの方が、彼は輝いて見えた」
目標を失ったマスターは、大学を辞めて、世界中を旅するようになり、別の目的を手に入れることになる。
「それが、惚れ薬の開発でした。自分の好きになった人を惚れさせる、そんな薬を開発することができれば私の人生も輝きを取り戻すことができる、そう思ったのです」
世界中を飛び回り、惚れ薬の原料になりそうなものを片っ端から試し、恋を成就させた世界中のカップルにインタビューをし、そしてついに15年かけて惚れ薬の開発に成功した。
「私の目の前で惚れ薬入りの珈琲を飲めば、男女関係なく、たちまち私の虜になりました。私は夜な夜な異なる相手との愛に耽りました。干からびて砂漠のようだった私の心と身体は、たちまち潤いを取り戻したのです」
確かに、マスターの肌は年齢の割に艶々としていて、ハリがあった。
「あなたが潤うのは勝手ですけど、僕を巻き込まないでください。僕は昨日偶然この店を訪れたただの客ですよ。そんなただの客をあなたの虜にしてどうするんですか? そんなことして楽しいんですか?」
「申し訳ない。でも、私だって誰彼構わずろまんちっくブレンドを飲ませているわけではないのです。あなたは、似ているんですよ、ショウに」
「ショウ?」
「私が学生の頃、競技ダンスを教えた男子学生の名前です。ショウ。顔立ちから体型から、声。何から何まで、あなたはショウに似ているんです」
そう言って燎のことを見るマスターの目は、とろんとして見えた。燎は、この1週間、ずっとマスターのことばかり考えて過ごしてきた。そんな相手に、そんな目で見られたら正気でいられるはずもなかった。
「実は、僕も競技ダンスをやってます」
「なんと……」
燎が告白すると、マスターは驚いたように髭で覆われた口元を手で覆った。
いつの間にか、夜も更けて、店内に客は誰もいなくなっていた。
マスターは目でメイド服姿の店員に合図をしてから、カウンターの奥の方に消えた。店員の若い女は、一度外に出て、営業中の立て看板を中に仕舞う。
音楽が流れ出した。それは、燎にとって聞き覚えのある曲だった。真珠採りのタンゴ。踊りやすく、競技ダンスのレッスンや大会でよく使われる曲だった。競技ダンスを踊ったことのある人間なら誰もが知っている曲。
奥から、マスターが右手を差し出しながら姿を現した。その姿が一瞬紀墨しおりに重なる。右手を差し出した感じがしおりのそれとよく似ていた。
燎は立ち上がり、目の前にきたマスターの右手に自分の左手を重ね合わせ、右手をマスターの左肩胛骨の辺りに置いた。マスターも左手を燎の右肩あたりに置いて、ホールドの完成。音楽に合わせて踊り出す。
それは、至福のダンスだった。競技ダンスを始めて1年半ほどが経つが、これほど踊って楽しいと思ったのは初めてだった。踊っているというよりも音楽の中の音符になって空間の中を飛び回っているようだった。観客はメイド服姿の店員だけで、テーブル席に座りながら、うっとりと燎たちのダンスを目で追っていた。
踊りながら、燎はマスターが学生時代に指導したというショウに嫉妬していた。こんなダンスを踊ることができるなら、相手が男だからといって燎ならば気にしないだろう。相手が獣だろうと宇宙人だって構わない。それほどマスターとのダンスは生きる喜びに溢れていた。
そして、真珠採りのタンゴが終わり、ダンスも終わる。燎はマスターの手を放そうとする。だが、その反対に左手を強く引き寄せられ、直後、髭が目前に迫った。もしゃもしゃとした髭の感触が燎の顔の下半分を覆う。そして、唇に優しい感触が現われた。この1週間、マスターに会わなかったことで募っていた焦燥や苛立ちが脳内ですべて溶けていく。
マスターの口によって燎の口が開かれる。燎はそれに抵抗しなかった。むしろ自分から身体を緩め、マスターにすべてを委ねた。
燎の口に、マスターの舌がぬるっと侵入してくる。燎はそれを受け入れマスターの舌に自らの舌を絡ませた。
ある記憶のようなものが脳内に現われては消える。世界を旅するマスターの記憶。それはとてつもない孤独に彩られた記憶だった。ショウを失い絶望し、惚れ薬を求めて彷徨うマスターの孤独が痛いほど伝わってきた。だが、ある時を境にその記憶が一変して光に包まれる。惚れ薬の開発に成功したのだ。愛を知った喜び。愛が、愛が、愛が燎の脳内でメリーゴーランドのように回転する。
マスターの舌と燎の舌が混じり合い、とろけ合う。感極まったように、マスターが燎の手を強く握った。燎もその手を強く握り返そうとして、だが何故か力が入らなかった。手指の先の違和感が突然燎の全身を貫いた。手が、違った。手が違う。それが、はっきりと分かった。これは燎の望んでいる手ではなかった。
その途端、燎の脳内を駆け巡っていたマスターの記憶が、無軌道な曲線を描いて消えていった。
代わりに現われたのは、紀墨しおりの横顔だった。
大学の入学式のあと。新入生のサークル勧誘で美人の先輩に声をかけられ、のこのことついて行った先にいたのがしおりだった。
しおりはサークルの入部届に記入しているところだった。その横顔を目撃したとき、燎は厳しい受験勉強の合間に密かに思い描いていた理想の大学生活が始まってしまったことを知った。燎は、舞踏研究会というそのサークルが何をするサークルなのかろくに理解しないまま自分も入部届に記入していた。よろしくねと笑ったしおりの顔が燎の脳裏にこびりついて離れなかった。
運動神経は悪い方だった。中学高校と吹奏楽部でトランペットばかり吹いていて、まともに運動したことがなかった。
練習に練習を重ねた。2年になるタイミングで同学年同士の男女でパートナー決めが行われる。しおりは同学年の女子の中では断トツに社交ダンスが上手かった。しおりのパートナーに選ばれる為には同学年の男の中で一番になる必要がある。受験勉強に取り組んでいたとき以上の熱意で社交ダンスに取り組んだ。練習がないときは有名選手のダンスの映像を見て研究したり、イメージトレーニングに励んだ。
そして、それまでの努力が実り、2年生になるタイミングでしおりのパートナーに選ばれる。その時の喜びが蘇った。よろしくねと改めて言ったときのしおりの笑顔。
燎の口の中をマスターの舌が暴れ回っていた。燎の舌はマスターの舌に好きなように転がされ、なぶられていた。
気が付くと燎は全身の力を使ってマスターを突き飛ばしていた。マスターは弾け飛び、カウンターに後頭部を強打し、そのまま倒れる。
跳ねるようにメイド服姿の女店員が駆け寄り、マスターを助け起こした。マスターの口元はだらんと弛緩し、その目は白目を剥いていた。
女店員は、子を守るライオンのような目で燎を睨み付ける。
「すみません、やっぱり無理です」燎は叫ぶように言った。自分が欲しいのはマスターじゃない。そのことがはっきりと分かった。「僕は、僕は……紀墨しおりさんが好きです!」
絶叫のような燎の宣言が、無音のかふぇろまんちっく内に響き渡る。
マスターの目に黒目が蘇り、何度も瞬きをした。女店員はその肩を優しく抱き、背中を撫でている。
マスターは、女店員に支えられてゆっくりと身体を起こした。マスターの髭は乱れ、シャツも乱れ、黒々としていたはずの円らな2つの瞳は灰色がかって見えた。
「こちらこそ、申し訳ない。ちょっとばかり情熱がほとばしりすぎてしまったようです」
沈鬱な面持ちでマスターは言った。荒い息が、マスターの厚い唇の隙間から漏れ出ていた。
「紀墨しおりさん……それが、あなたが好きな女性の名前なのですね」
マスターは、灰色の瞳で弱々しく燎を見て言った。
「そうです。ずっと好きだったんです。その女性に相応しい人間になりたくて、今まで頑張ってきたんです。僕は、紀墨さんが好きです」
燎は震えながらそう答えていた。今まで抑えていたしおりへの思いが逆にこみ上げ次から次へと溢れ出てくるようだった。
マスターは、燎を見つめ、深く頷いた。
「あなたの思いは本物のようですね。キスをしているとき、あなたの気持ちがどんどん離れていくのが分かった。私はそれを認めたくなくて、逆にあなたを強く求めてしまった」
マスターの目は、いつのまにか元の珈琲豆のような深みのある黒い瞳に戻っていた。
「今度うちにその紀墨さんを連れてきなさい。今回のお詫びに、ろまんちっくブレンドをごちそうしますよ。特別に、ろまんちっく増量で」
「いいんですか」
「いい夢を見させてもらった。今度はあなたの番です」
マスターはそう言って笑う。
「それなら、もう一つ、お願いを聞いてもらえますか」
燎は、マスターの顔を窺うようにして言った。
踊りながら、いつもと違うことに気付いていた。しおりの表情が違った。踊り始めたときは余裕のある感じだったのが、踊っていく内に当惑した様子に変わり、やがて怒りにも似た表情に変化した。そして今はそれを通り越して、ただひたすら静かだった。しおりの瞳には炎が輝き、頬は赤らんでいた。
あの後、燎はマスターにダンスの特訓を頼んだ。マスターと踊ったときの、音楽と一体になったようなあの感覚。しおりとのダンスであの感覚を再現したかった。あの感覚をしおりにも味わせてあげたかった。毎晩、喫茶店の営業終了後マスターとダンスの特訓に励んだ。
今、燎の指先からつま先まで、不思議な力が漲っていた。その不思議な力が、指先や身体の触れあっている部分からしおりにも伝わっていることが分かった。
燎としおりは、音楽の中で互いに溶け合い、音楽の子となっていた。音楽の子となり、育ち、やがて親となりそして老いていくようだった。
音楽が終わりにさしかかった。
ダンスが終わる。燎は紀墨しおりの手を放そうとする。だが手は離れなかった。しおりは燎の手を弱く握ったままで、驚いたように燎を見ていた。燎もしおりのことを見つめ、そのまま動かなかった。
少し離れた場所で拍手が生まれた。目をやると、清瀬梨里が放心したように立って、拍手をしていた。その拍手に触発されたように、近くの他の学生たちからも続いて拍手が沸き起こった。
そこでようやく燎はそっとしおりの手を放した。放したけれどまだしおりの手を握っているような、そんな温かい感覚が残像のように手の先に残っていた。しおりは燎を見つめたまま、微笑んだ。
かふぇろまんちっく。店名の緑色のネオンが入口の上で輝いている。
「へえ、いい感じだね。こんな店、知ってたんだ」
「珈琲も美味しいんだよ」
そう言って入口の白いドアを開けて、しおりを先に中に入れてからドアを閉める。
「いらっしゃ……」迎えたメイド服姿の店員が、そこで口を止める。「お好きな席どうぞ」
テーブル席に座るのは初めてだった。L字の赤いソファ席を選んで座る。緑色のランプが天井から吊り下がっていて、しおりの顔を美しく照らしていた。
「お店の名前のとおりだね。ロマンチック」
「そうだね。実は、ろまんちっくブレンドっていうのがあってね……」
燎はそう言ってメニュー表を手に取って見せる。
「ろまんちっくブレンド。時価って、何?」
「お店が仕入れた特別な珈琲豆をブレンドした珈琲で、その時によって仕入れ値が変わるから、時価なんだって。ね、マスター」
燎はいつの間にか隣に立っていたマスターを見上げ声をかける。マスターはにっこりと笑って答える。
「ええ、そうです。当店自慢の珈琲となっております」
「私、それ飲みたい」
しおりは目を輝かせていった。
「じゃあ、マスター、ろまんちっくブレンド、2つお願いします」
「あ、でもその前に値段聞いとかないと……」
しおりが心配そうな顔になる。競技ダンスはドレス代や合宿代など、何かとお金がかかる。無駄遣いできる余裕はなかった。
しおりの言葉に、マスターは芝居がかった仕草で燎としおりを交互に見る。
「今日は、そうですね……。今日は、五百円。普通のブレンドと同じ価格で大丈夫ですよ」
マスターは燎を意味ありげな目で見つめて言う。
「いいんですか。もっとふっかけてもいいんですよ」
「いいえ。今日はそれが適正価格です」
マスターは笑みを浮かべてそう言うとカウンターの方へ去って行く。
「楽しみだなぁ、ろまんちっくブレンド。でも、燎くんがこんなお店知ってたって意外だな。燎くんって珈琲嫌いな人だと思ってた。一緒に行くといつもロイヤルミルクティ飲んでるし」
「前はそうだったんだけど、最近珈琲飲むのにはまっててね」
そう切り出してから、燎は珈琲の味が分かるようになるために訪れた喫茶店の数々の話をする。珈琲が好きでカフェ巡りが趣味だというしおりはそれに食いついて、話は弾んだ。
「お待たせいたしました」
すぐ傍で低く渋い声が聞こえる。いつの間にかマスターが立っていて、テーブルの上にコーヒーカップを置いた。
「ろまんちっくブレンドです」
しおりの前に置かれたカップは赤い花柄模様で、燎の前に置かれたカップは青い花柄模様だった。
「いい匂い」
しおりはコーヒーカップを顔に近づけて呟く。
燎もコーヒーカップの金色の持ち手の部分を掴んだ。中を覗き込むと、限りなく黒に近い黒褐色の液体が静かに揺れている。珈琲を飲み始める前には人が飲んでいい飲み物には思えなかった。でも、今なら分かる。その黒褐色の向こうに広がる深く豊かな世界。
燎はコーヒーカップを傾け、ろまんちっくブレンドを口に含んだ。やっぱり苦い。目の前に視線を向けると、しおりも珈琲を口に含んだところだった。その顔を見た途端、胸の中に広がる甘い感覚。
「おいしい」
しおりは、コーヒーカップから口を離し、目を見開いて言った。
「苦くて、甘い。それそがろまんちっくブレンドの特徴なんだ。ね、マスター」
燎は横で見守っていたマスターに声をかける。
「そうです。甘みはちょうど良かったですか?」
燎はもう一度ろまんちっくブレンドを口に含む。苦くて思わず目を瞑ってしまうが、再び開くとそこにはしおりの顔がある。すぐに甘みが全身を駆け巡った。
「今日は少し甘みが強すぎるかもしれませんね」
燎がコーヒーカップをテーブルに置いて言うと、マスターはふっと笑った。
「ろまんちっく増量にしておきましたから」
「確かに、そう言われると苦みのあとに甘みが残るような……」
しおりもコーヒーカップを再び口に含んでそう言う。
「言った通りでしょ。本当においしいんだよ」
燎も続いて珈琲を飲んだ。やっぱり苦くて、そして甘い。
マスターはごゆっくりどうぞと言ってカウンターの向こう側に消えた。
この日のろまんちっくブレンドの効きは早かった。珈琲を飲めば飲むほど、話せば話すほど、しおりを見つめれば見つめるほどに、しおりを愛しく思う気持ちが強まった。そして、しおりが燎を見つめる瞳も、時間が経つほどに輝きを増していくのが分かった。
時間はあっという間に過ぎた。
「外で待ってて」
燎はしおりに伝えて、カウンターに向かった。
マスターはコーヒーカップを拭いていたが、顔を上げ燎に気付くと笑った。
「綺麗な子ですね。妬けちゃいましたよ」
「バッチリでしたよ、ろまんちっくブレンド。もっと大々的に売り出した方がいいんじゃないですか。恋人たちの聖地になりますよ」
「幸福そうなカップルが増えすぎると良くない。隠れてやるくらいがちょうどいいんですよ」
燎は財布を取り出し、広げる。
「本当に千円でいいんですか?」
ブレンド1杯五百円。2杯で千円。
「お代は結構です。言ったでしょう。今日は私の気持ちです」
「でも……」
「それに、もし仮にお代をいただくとしても、当然千円です。それ以外にはありえません」
いたずらっ子のような輝きを秘めた目でマスターは言った。
「……?」
「なぜなら、あなたたちが今日飲んだのは普通のブレンドだから」
訳が分からなかった。
「いや、でも、ろまんちっくブレンドでしたよ。苦みと甘みが交互にやってきて……」
「今日お出ししたのは、うちで扱う中で一番苦い豆を使った珈琲です。もし甘みを感じたとしたら、それは目の前にいるお相手のせいでしょう。好きな人を目の前に飲めば、どんな珈琲も甘く感じられる。それに、あなたたちに惚れ薬入りの珈琲なんて必要なかった。そんなの、あなたたちが入ってきたときにすぐに分かりました」
燎はあっけに取られてマスターの顔を見ていた。ランプの光を浴びてまるで珈琲のように黒く輝くふさふさとした髭の上に、2つの円らな瞳が輝き、柔和に笑っている。
「全然分からなかった……」
「まだまだですね。あなたは珈琲の味の分からない人間だ。まだ修行が必要です。うちにはろまんちっくブレンドの他にもたくさん珈琲があるんです。今度是非試しにいらしてください」
「是非。また来ます」
燎はマスターに笑顔でそう伝えると、外で待つしおりのもとへ向かった。
「長かったね」
「世間話だよ。仲いいんだ」
「ふうん」しおりは、燎の目を覗き込むようにして言った。「いいね。ああいう大人な感じの人と仲いいって」
燎は左手にひんやりとした馴染みのある感触を感じて、見るとしおりの右手が不自然に触れていた。
「今日、寒いよね」
「うん、寒いね」
燎は左手でしおりの右手を探りながら、握った。いつものあの感覚が蘇る。今にも曲が流れてきそうな、あの感覚。
ダンスが、始まる。
かふぇろまんちっく @yumeoni
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