愛の言葉を嘘にしたくないから

三郎

本編

「んっ……」


 いつものように彼女は優しく私に触れる。割れ物を扱うように丁寧に愛してくれる。だけど、いつもと違うところが一つだけ。

 いつもなら「可愛い」とか「好き」とか「愛してる」とか、しつこいくらい愛を囁いてくれるのに、今日は口数が少ない。


「……ねぇ……何かあった?」


「ん?何もないよ。どうして?」


「今日……静かだから……」


「そうかなぁ」


「そうよ。いつもならしつこいくらい愛し——んっ——」


 唇を塞がれて、会話は強制的に終了させられた。「不安にさせてごめん。けど今は何も言わないで」と彼女は少し困ったように微笑み、私の唇に人差し指を当てた。


「……いい?」


「……終わったら、理由を話してくれる?」


「うん」


「……分かった」


「ふふ。……ありがとう」


 彼女は優しく微笑んで唇を重ね、慣れた手つきで私の服を脱がす。そのまま、何も言わずに露出した胸元に口付けた。下着を外して、一箇所一箇所、慈しむように丁寧にキスを落としていく。


「んっ……」


 会話がないせいで、いつも以上に彼女や自分の甘い声や吐息を意識してしまう。落ち着かない。いつもみたいに喋ってほしい。なんなのだろう。そういうプレイなのだろうか。


「……気持ち良さそうだね」


「だって……なんか……」


「……ん?」


「静か……すぎて……」


「……ふふ。落ち着かない?」


「っ……」


 それもあるが、先ほどから絶妙に弱点を掠めては外してくる。今日はなんだか意地悪だ。


「焦らさないで……」


「ふふ」


「意地悪……」


「ふふ。ごめん」


 彼女はくすくすと笑いながら、ちらっとテーブルの上のデジタル時計を見た。釣られて見る。23時59分。


「もう日付け変わるね」


 そう言ってふっと笑うと、彼女は急に焦らすのをやめて私の弱点を攻め始めた。


「んんっ……!」


 ラストスパートをかけて、数字が0時00分に変わった瞬間「もういいよ」と囁いた。その一言で私は声にならない嬌声を上げて、天国へと導かれた。

 彼女はぐったりとする私を抱きしめて頭を撫でながら、ようやく「愛してるよ」と囁いた。


「可愛かった」


「過去形なの?」


「ごめんごめん。可愛いよ。好きだよ」


「……今更」


 拗ねて背を向けると彼女は「ごめんね」と笑いながら私を抱きしめた。さりげなく胸を揉む手を払い除けて向き直し、彼女を押し倒す。


「……仕返しさせて」


「えー……」


「えーじゃない。……嫌だって言ってもするから」


「……優しくしてね?」


「どうかしら。ムカついてるからちょっと意地悪しちゃうかも」


「それでもちょっとなんだ。可愛い」


「うるさい。もう黙って」


 うるさい口を塞いで、彼女が私にしたようにたっぷり焦らしながら攻め倒した。





「……で?結局なんだったの?」


 事が終わってから喋らなかった理由を問いただす。すると彼女は


「エイプリルフールだったから」


 と悪戯っぽく笑った。

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愛の言葉を嘘にしたくないから 三郎 @sabu_saburou

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