第7話
すとん、と一歩遅れて私も落下します。
何度も転移をされていますと、流石になれるというものです。
少し不思議そうにレンさんが見ていますので、簡単に説明いたしましょうか。
「えっと?ユリイナは何で少し落下が遅れたんだ?」
「浮遊魔法を使用していましたので、自分の意思で落下できる状態にしていたのです」
無論、私の歳で使いこなすのは難しいのであくまでも少し使える程度なのですが。
そう説明をしたら、何故かキアラ様が額を押さえました。
「はあ…」
「どうしたのですか?ため息などついて。幸せが逃げてしまいますので、あまりしない方がよいですよ」
「もう何も言うまい」
再度溜息したキアラ様に少しばかり眉を顰めます。
一回ならまだカバーできたかもしれませんが、二回してしまうともしかしたら何か辛いことがこの先待っている可能性があります。
逃した幸せはどうしたら戻すことが出来るのでしょうか。
ああその前に側にいてあげたい。苦労や痛い目をキアラ様がみる前に。
深く考え込んでいますと、二人の気配が部屋の隅に移るのを感じました。
…人に全てを明かしてもらうよう頼むのは無理な事。
何かしら秘密は持っていることは絶対であるので、ここで私が言及しても意味はなさないでしょう。
さて、時間をいただいたことですしもうしばらく私は思考を続けさせてもらいますか。
時間をくださったお二人に感謝ですね。
***
今にも舌打ちをしそうな表情のキアラに腕を引っ張られたレンは心がひやりとしたのを感じる。
自分はこれでも獣人なのに、瞬きをしたら連れられていたなど、体験していない獣人が見たら間違いなく笑われてしまうだろう。
強靭な肉体を持ち、かつ人並み以上の知性も持っている獣人は勇猛無比の代名詞。
それが奴隷に落ちてしまったのは歴史を辿る必要があるのだけれど、今はその時間ではない。
問題は一切の抵抗をする間もなく敗北を喫したのと同じ目にあったということだ。
魔女と言われるその強さを体験したレンは本能で逆らってはいけないと感じた。
「……」
「あ、あの魔女様?どうしたので」
「おい獣人。この件が終わったらユリイナに関わるのはやめとけ」
レンは一瞬何を言われているのか分からなかったが、理解した途端憤怒に顔を歪める。
それは、自分が獣人だからあの少女に近づくなという事なのか。
弟子が可愛いからけがれた獣人をそばに置くのは許せないのか。
しかし、キアラはレンの思考を読み取り真剣な表情で首を振った。
「違う。そんなことではない。私が恐れているのはお前が壊れることだ」
「それは…」
どういう意味でしょうという続きの言葉は瞳の奥に見える恐れの色に飲み込んだ。
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