第4話
頭を下げて謝ると、焦ったような声がした。
「いや、逆にお礼を言いたいんだけど…。本当に、君が治してくれたのか?」
「はい。回復魔法は得意なので」
得意にしていませんと全員を助けられませんから。
付け足すように言った私に、更になにか言おうとして口を開いたが、獣人さんは思い出したからのように警戒の目を向けた。
今更私を人間と認識したのでしょう。
遅いと感じましたが、混乱しているようですし仕方ないですね。
ついでに言ってしまうと、私は帽子を被っているので見た目だけでは単純に気付きにくいです。接近したので匂いで気付いたという事が妥当でしょうか。
「…オレが獣人ということも分かっていて、言っているのか?」
「?当然ですが。獣人だからと差別するのは本当、可哀想です。間違っています。何故差別される側の気持ちを考えられないんでしょう…」
はぁ…と思わずため息が出てしまう。
その様子を見ていた獣人さんは目を丸くさせた。
「…随分と夢みがちなことを言うんだな」
「そうでしょうか?」
当たり前だと思いますが、と言いかけた言葉は飲み込む。
何も考えず失言しそうになってしまいました。先程の発言も思い返してみれば失言ばかりです。
気を抜いたら、延々と愚痴を溢してしまいそう。
「それは兎も角ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「これを失礼を。オレはレンという。君は?」
「…ユリイナと申します。以後お見知り置きを」
一瞬躊躇った口を無理矢理動かし名乗る。
少し空いた時間を特に怪しむことなく、レンさんは立ち上がる。
しっかりと力が入っているようなので、もう大丈夫でしょう。
ふっ、と息を吐いて再び浮遊術を行使しようとする。
しかし、それよりも先に彼が私を捕まえるのが先だった。
まだ痛むのでしょうかと目を見ると、縋るような視線が射抜いてきた。
「…なぁユリイナ。お前は本当に獣人を差別することは間違っていると思うか?」
「思います」
簡潔に、想いの全てを込めて言う。
「共存すべき存在が敵対し合うのは間違っています。だから宣言させてもらいます。私は絶対に差別しません」
その一言で、縋り付くような色は安心へと変化した。
そして、自身を恥じるかのように頭を掻いた。
「…すまねえ。疑って悪かった」
「いえ、今までの待遇を考えると普通です。お気にせず」
にっこり微笑むと、レンさんは何かを呟いた。
「…博愛主義、か?」
「何か?」
「いやなんでもない。それで、差別しないと言うことを信じて相談というか、手伝って欲しいものがあるんだけど…」
「なんでしょうか?なんでもお手伝いしますよ」
即答で答えた私にレンさんは瞠目してみせた。
「内容、聞かなくて良いのか?」
「何か困っている事があるのですよね?ですので断る理由はありませんよ。内容がなんであれ」
笑顔の私に、レンさんは気味の悪いものを見たかのように目を向けた。
「それ、もう博愛主義とかのレベルじゃなくね?」
「そうですかね…?」
なんだか前にも似たようなことを言われましたが…単に皆様の配慮が足りていないだけでは?
「ところでどんなお悩み事ですか?」
「あ、あぁ…実は幻の果実『ポポー』を取ってこいと言われて…」
「まぁ…それはまた困難なことを…」
表情を不愉快さに歪めると、レンさんも同じように曇らせた。
それは、ポポーと言う果物が今の季節は入手不可能という点にあります。
ポポーというのは幻の果物と言われてまして、八月末から九月の間でしか収穫することはできません。
今は四月。
…何処を探しても、見つかることはないでしょう。
つまり、これは人間から依頼という名のいじめで、取ってこれないと確信してのことでしょうね。
獣人を虐めることを心から愉しむ人間はこの世に沢山いますから。
…ああ本当に、本当に気分が悪い。
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