第2話
土に還すと決めてからの事は早かった。
魔法で土に穴を開け、ゆっくりと沈み込ませていく。
生まれて十年。丁度二分の一成人の歳です。
ずっと優等生な私にとって、魔法を扱うなんてお手の物。難しいなんて縁のない事。
天才と呼ばれる人種なのでしょうが知識に対する要求がないから海には潜れない。宝の持ち腐れって言われるでしょう。
けれど、能力を持っている人が絶対に何かを為さなければならないわけではないので、文句を言われる筋合いは無いんですよね。
えっせほいせと大柄な男を埋めるのに苦労していたけれど、男の身体を半分埋め込ませたところで、重要なことに気付いてしまう。
「あ、私としたことが布で包むのを忘れてしまいました」
遺体は綺麗に保管しておかないと可哀想であるのに、これでは遺体を切り刻むのと同じくらいの失礼ではないですか。
なんという失態でしょう。これは更に見つからなければなりませんね。
こんなミス、誰かに見つかったら恥ずかしくてたまりません。
全く…やっぱ少し脳が混乱しているに違いないです。今まで何かを失敗するというのはなかったと言うのに。
今からやり直したいのはやまやまですが、そもそもで布の用意が出来ていなかったんですよね。持ってきてないんですよ。
まさかこんな事態になるとは思いませんでした…というのは言い訳ですね。
「次あってもいいように、用意しておきますか…」
自分に失望し、軽くため息をつく。
…そうは言いますけれど、今日の事が二度と起こらないことが一番望ましいのですが。
ただ、常備することに越した事はないですね。いつでも心を切り替えられるように。あちらの私に任せられるように。
…あぁ、申し訳ない。
突然、こんなことを思って皆さんなぜかと思ったでしょうか。
いえ、当然ですよね。序盤でいきなり気付く事は殆どないですから。
私が申し訳ないと感じたのは、今言ったあちらの私に対して。
どうしてかって言われますと…幾つか理由があります。
もう一方の私に貧乏くじを押し付けてしまう事が本当に申し訳ない。
生み出してしまって申し訳ない。
私が、誰かを物理的にも切り捨てたいと思っても出来ないから。
相手が人間である以上、私は相手に危害を入れるなど出来ないから。
だから、二つ目の人格が出来上がってしまったのでしょう。
なんて心の痛む事。
これらは全て弱い自分の所為だけれども、出来ないから押し付けるしか出来ません。
申し訳ないと思っても縋るしかないのです。
…ごめんなさい、と思っていても自分のことだから救いようがないのが悔しいです。
人格が誕生した直後にこのような自分の心理に気付いてしまう、というのは物語としてどうかと言われそうですが、気付いてしまった事は仕方ないでしょう。
という事で察して下さい。この物語は割と早くに終わるでしょう。
……こういうのは言わないのが普通でしょうか?
でもこれ思っている事だから仕方ないですよね。
メタイことが出てくるのも仕方のない事です。
さて、そろそろ始まりも終わりにしますか。
男も埋め終わった事ですし、うちに帰りましょう。
身体を反転させ、浮遊術を使う。
…自慢ではありませんが十歳で使えるのは基礎魔法ぐらいです。
例えば、火球や水泡なんかです。
こんな風に皆さんがこれを使えるようになれますと、全員が幸せ…時がたつと幸せとは感じなくなるでしょうがそれでも楽に過ごせるようにはなりますよね。
それにしても…ここは全く人がいませんね。
人が通っていないとたとえ誰かが苦しい思いをしていらしても気付けないので、念のため誰か倒れたりしていらっしゃらないか確認していきますか。
少し体を傾け進行方向を変えて飛んでいましたが、私の予感は悪い方が的中しました。
「…いましたね」
私より少し上と思われる人が、倒れてますね。
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