35話 朝食
「ん、ふぁ……」
朝日に照らされて目を覚ます。
いつの間にか藁の下で眠っていた様だ。
起き上がって朝の冷たい風を全身で浴びる。
午前5時ぐらいだろうか?
いつも朝はぼーっとしてしまうが、今日に限っては昨日泥の様に眠れた事もあってかスッキリしていた。
ぐうう……
お腹が鳴った。
昨日の朝からバナナしか食ってないのだ、腹が減るのは当然だ。
パンと温かいスープを飲みたいですわね……
慣れない町を練り歩いてパン屋を探す。
王都の隣町とあってか朝日に包まれる町の人々の足取りは忙しない。
それが嫌にヒリ付く感じがして、セレーネは大通りから路地の方へと進行方向を変えた。
煙突から伸びる白い煙に誘われて足を運ぶと、そこはパン屋だった。
香ばしい香りがからっきしのタンクを刺激する。
とぼとぼと進んでいた足取りを早め、走り、パン屋の前まで着いた。
荒く扉を開いて、パンが所狭しと並んだ店内に入店する。
「おっ、お客さんラッキーだね、丁度今焼き上がった所なんだよ。」
店員が気さくに声をかけてきた。
「早起きは三文の徳って奴ですわね! 」
セレーネは空腹に任せてハムサンド、フランスパン、チョコロール、チーズパン、メロンパンと紙袋いっぱいにパンを買い込んだ。
「まいどー! 」
パンを沢山買ったので、熱々のコーヒーをサービスしてもらった。
本当はスープを飲むつもりだったけど、もう早くパンを食べたいし、これで妥協しよう。
セレーネは熱いカップにそっと口を付けた。
「苦……」
コーヒーとフランスパンで空きっ腹を膨らましたセレーネは、余らせたパンを入れたデカい紙袋を抱えてアテもなく町を歩き回っていた。
紙袋が邪魔で前がよく見えないですわね……
しかしパンを捨てる気にはなれなかった。
人生一番レベルの空腹に叩き込んだフランスパンと苦いコーヒーは人生で一番美味しかったから、こんなに美味しいものを手放すのは幾ら私が貴族令嬢でも、もったいないと思ったのだ。
ドン!
「きゃっ! 」
何かがぶつかってきた。
セレーネも「ぐおっ」と言って倒れた。
ぶつかってきたのは薄汚い少女だった。
奴隷か何かだろうか? 王都ではなかなか見ない身なりの女の子だった。
「あっ! 」
メロンパンが紙袋から落ちてしまっている。
丸いから転がり易かったのだろう。
落っこちたメロンパンに惜しむ様な視線を送る私を見て少女もメロンパンに視線を向ける。
「……まだ食えるな」
セレーネは耳を疑った。
貴族であるセレーネは落ちたものを捨てる生活をしていたからだ。
「貴女、何か落ちたものを食べられる様にする魔法でも知ってるんですの? 」
自分より何歳も年下であろう少女におどおどと質問した。
「ああ? んなもんこうするだけだろうが。」
少女はメロンパンをつまみ上げると、メロンパンの底についた砂をぺしぺしと払って見せた。
「ほれ、これで食えるぞ。」
メロンパンを差し出されたセレーネは雷に打たれた様な感覚になった。
地面に落ちて、汚れたものを、多少汚れを払って……食える?
「何だ? 落ちたもんは食えねぇってか? ならしたの部分はアタシが貰うぜ。」
「あっ……」
手を伸ばしたのもつかの間、少女はメロンパンを真っ二つにちぎり、その一方をぺろりと飲み込んでしまった。
「まぁ、ぶつかって悪かったよ。」
と、メロンパンの汚れてない上半分が差し出される。
セレーネはそれをおずおずと受け取った。
手のひらのメロンパンをじっと見てセレーネは葛藤した。
地面に接地してないとは言え落ちた食べ物。
食ったら死なないだろうか……と。
「じゃぁ、アタシは失礼するよ。」
少女が立ち上がる。
セレーネは何かに背中を押されたように、少女を引き止めた。
「名前っ! 貴女の名前はっ? 」
少女はセレーネの言葉を聞いて、セレーネ上下じろじろと眺めた後に答えた。
「落ちた食いもんを食わねーって事は、アンタ貴族サマだろ? 貴族サマに名乗る名なんてねーよ。つか嫌だわ、ふけーざい? とか言われそうでよ。」
……
バクバクバクバクっ!
「なっ———お前! 」
どうしてかセレーネ自身理解してはいなかった。
だが、ここでこの少女の名前を聞けないのと、メロンパンを食えない事———
それを考えたら、行動していた。
「落ちたメロンパン、ぜんぜんクッッソ美味えですわね。」
「はははっ! こんな食い意地の奴は貴族じゃねーわ! アタシはドレッド、アンタは? 」
愉快そうに笑うドレッドを見上げて、セレーネは名乗った。
「セレーネ、ただのセレーネですわ。」
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