33話 当然呆然必然唖然
「メッセージを受け取ろう。」
魔王の残骸も期待外れだ。
ちょっと脅かしてみたが、大した発見は得られなかった。
首を切るアレだって、大地、海の絶対者には無意味だろう。
あいつらも、どうせすぐに再生するしな。
しかし人間にしては良い線まで行ってたんだがな……
最後には命乞いなんてしてしまう。
がっかりだ。
我とは絶対的に縁の無い行為だが、我が首を軽く撫でた褒美として少しぐらいは耳を傾けてやっても良いだろう。
そして、風の絶対者にシュレイドのスマホから王都中からのテレパシーが送られた。
『どうして、どうしてどうして!殺す殺す殺す……お願いしますどうか命だけはっ、おかーさんをかえして!なんで俺の住んでるトコなんだよォーーー!私の家族を平気で踏み躙った貴方を許さない。許さない許さない……痛い痛い痛い……助けてたすけてたすけて……お前なんか天空王国四天王に成敗されろ!呪ってやるううううううううう!消えろカスジョンを返して! 娘も、嫁も、なんでも差し上げますから私の命だけはーーーッ! 風の絶対者殺す風の絶対者殺すうぜー!なんでそんな事が出来るの?熱い熱い燃える燃える燃える———ッ!いやいやいやいや……この痛みが分からねぇのかよ!そんなデカい頭してんのに!悲しいよ……寂しいよ……俺の自慢の腕がぁーーー!私を庇って夫が潰れました。炎が来る助けてぇーーー!死にたくねぇよ。お前の方こそ潰れろ!どうかしてる……堕ちろ堕ちろ———ッ!父上、僕は……べちゃ。しねしねしねしね一生掛けて作り上げたマイホームが……どんどん冷たい行かないで私の子供を返して!呪い殺す事が出来たらッあえ!ゆ勝ちますわよ、シュレイド!ドロドロだ……おかーちゃん。狂う狂う狂う……俺の命と引き換えにでも上のデカブツを……ロン毛だせー!シンプルに死ねや人の心が無いのか!親父……まだ俺に沢山教える事が残ってるって……ワシは折角貴族になったばかりなのにィいいいい!上のデカいのが着てる服ぜってー横からちんちん見えるよな。どうか、どうか娘の命だけは……五月蝿え声の奴!お前が代表して風の絶対者様に謝罪しろ!憎いいいいいいい!腹に瓦礫が突き刺さってるけどまだ息子は助かるんだ、死んでないんだ!だから今すぐ辞めて殺す殺す殺すバカ!しね!このクソが!呪う呪う呪う我ってなんじゃい偉そうに死にたくねぇよおおおおおおおおおおおおおお! 俺の勝ちだ』
な、何———
絶対者は、超強い。
頭も超良い。
故に、理解してしまった。
この王都中の痛みを。
それも一瞬で—————————
そうなったら耐えられない。
どんなに下等な存在の痛みだとしても、その優秀な頭脳が痛みを共感———同じ痛みを受けてしまう。
いくら絶対者であっても心はある。
人はアリを踏み潰しても心を痛めない。
絶対者が人を踏み潰しても心を痛めない。
それは余りに存在に差があり、共感のしようが無いからだ。
しかしどうだ、アリがもし喋ったら、痛いと言ったら、その言葉が届いたら。
人は、共感してしまうだろう。
絶対者は共感した。
矮小な、自分とは比べ物にならない存在の痛みを。
それも沢山沢山沢山だ。
耐えられない、耐えられる訳が無い。
結論を言ってしまおう。
絶対者は精神が限界になり、ゲロカスになって死んだ。
柔らかな一陣の風が王都に終戦を伝えた後、俺達三人は王都の片隅で顔を突き合わせていた。
「———で、結局どういうカラクリだったんですの? 」
セレーネがもっともな疑問を口にする。
「そうだな……じゃあ種明かしと洒落込もうか」
わくわくとした目を向けないでくれよ二人とも、そんないいもんじゃないんだ。
早くしろと視線で促されて、シュレイドは渋々口を開く。
「精神攻撃だ。」
「へ? 」
「精神、つまり心だよ。風の絶対者と会話した時何か子供っぽい感じがしてさ…… めちゃくちゃ強いアイツだから、そこの部分、唯一弱く見えた心の部分を攻撃したって訳。」
「心を……攻撃? 」
どうもセレーネには上手く伝わっていない様だ。
やって見せた方が早いか。
「おいリィリィ! 」
「何ですです? 」
「おらっ、テレパシー! 」
俺はリィリィにテレパシーで『バカ』と送った。
「あ゛? 」
そのメッセージを受け取ったリィリィは額に青筋を浮かべこちらを睨んでいる。
「こう、テレパシーの魔法で何か言えば今みたいに人を怒らせる事が出来るだろ? それを応用して風の絶対者にクソ最悪な気分になって貰ったんだ。」
セレーネはシュレイドの脛に蹴りを入れるリィリィを見て、「成る程ですわね……」と納得した。
「じゃあ、シュレイドも私にテレパシーで何かメッセージを送って怒らせて見てほしいですわ! 」
張った胸をバンと叩く。
「変わった奴だな……自分で食らって実感を得たいってのは分かるけどよ。」
俺はテレパシーでセレーネに『臭い』とメッセージを送った。
俺の脛に蹴りを入れる人が増えた。
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