32話 ゲロカスな解答


 迷いは無い。


 自分の行いにケジメを付けること、セレーネとリィリィの信頼に答える事、そして、この地獄を終わらせる事———




 覚悟を決めてから、シュレイドの行動は早かった。




 常時発動の防御系魔法を全解除し、一度に使える魔法の枠を少しでも多くする。




 いくら無限の魔力と言っても、一度に使える魔法の数には限りがあるからだ。


 俺の一度に使える魔力が1000万、常時発動の物理、魔法防御魔法で850万、残り150万でヴォルカニックスピアだと三本って所だろう。




 常に枠を食っている防御魔法を解除すれば、ヴォルカニックスピアも二十本は出せる。




 まぁ今回使うのはヴォルカニックスピアじゃなく、加工魔法とテレパシーの魔法だ。






 まず加工魔法でスマホを作る。


 と言っても形だけの鉄製はんぺんで、機能は文字入力とそれを送信するだけだが。




 そしてそれを王都中にばら撒き、最後の一撃の布石とするのだ。




 傍のリィリィに作ったスマホがちゃんと機能するかテストさせている。




 セレーネは走り去った男から情報を引き出す為、男を追い、城内を走り回ってる。




 ゲロカス解答が俺の手の中で完成していく。




 『んっ、文字入力、送信、問題無しですです。』




 リィリィに渡したスマホから俺のスマホにメッセージが届く。


 テレパシーの魔法の応用だ。




 「おっけーだな。」




 「ほ、ホントにやるんですです? 」




 不安そうな上目遣い。


 当然だよな……




 それでも、シュレイドには迷いが無かった。




 「これが正しいかどうか、俺は分からない。でも、この手なら……問題を後回しにできる明日ぐらいは迎えられる。」




 ロングコートをはためかせ、テラスから炎と風が荒れ狂う王都に向き直る。


 加工魔法で作った拡声器を持ち上げて、シュレイドは最後の作戦を開始した———。








 王都にスマホの雨が降った。




 誰がともなく王都の人々はそれを手に取り、轟く声に耳を傾けた。




 「王都がこんなボロボロになったのは、上に居るデカい風の絶対者のせいだ! 」




 うるさいよ……


 もう静かにしてくれ……


 どうせ死ぬならこの五月蝿え声を黙らせてから死んでやる……




 「文句の一つでも言ってやりたくねぇか? 」




 黙れよ……


 あんなデカいのに俺らの声なんか届く筈ないだろ


 ころっ、こっ、殺す……




 「今空から落としたはんぺんみてぇな鉄の塊、それを使えば上のデカブツに声を届ける事が出来るぞ! 」




 だからどうしたよ……


 命乞いでもしろってか?


 死にたくねぇよぉ……


 話が通じる訳ないだろ!




 「風の絶対者、少なくとも会話は出来る奴だったぜ、今も俺の声を聞くために攻撃を止めてる訳だしな。」




 ……


 ……


 それって……




 「まっ、後はテメェ等の自由だ! 黙って踏み潰されるか、帰ってくれって頼むか、文句言って死ぬか……命乞いするってのも良いかもな! 」




 そこで五月蝿い声は止まった。




 気付けば風の攻撃も再び始まり、王都の人々ははんぺんみてぇな鉄の塊に一人、また一人と手を伸ばした———








 シュレイドは丁度王冠の人影が飛び降りた手すりに腰掛けていた。


 空には未だ平然と絶対者が漂う。




 「で、結局何をするつもりだったの君? 」




 風の絶対者の声が脳内に直接響く。




 自分の葛藤緊張その他色々な悩みとかの思考に割り込んで、絶対的に声を聞かされる。




 あまり良い気分じゃな———




 「そういうのいいからさ、早く早く! 我がこの世界に居られる時間もそう長くないんだし! 」




 い。




 まぁ、隠し通せる訳もないし時間稼ぎがてらゲロってしまおう。




 「アンタが今やってるコレと同じだよ。」




 「絶対テレパシーの事? 」




 「ああ、そんな凄いモンじゃねーけどな、俺がやるのはただのテレパシーだ。」




 頭上のデカい風の絶対者の本体が首を傾げる。


 それだけで世界が揺れて———全く、いちいちスケールの大きい奴だ。




 「でもテレパシーでどうやって我を倒すつもり? 絶対者とたかだか人間程度の思考じゃ性能差があるとは言え、それが攻撃魔法じゃない事位は分かるだろう? 」




 ナチュラルに全ての人を見下してるな……事実ではあるが。




 「何、皆んなが誠意を込めてお願いすれば絶対者サマも帰ってくれるって思っただけさ。」




 「ふーん、君も結局期待外れだったね。他の絶対者を倒す良いアイディアを汲み取れると思ったんだけど……」




 他の絶対者……? 倒す? 仲悪いのかな?


 今気にする事じゃないか。




 「……まぁ、見てな———」








 シュレイドはロングコートの右ポケットに手を突っ込み、中のスマホを操作した。




 メール→156件の未読メール→全てコピー→貼り付け→送信→宛先———






 「宛先、風の絶対者様。」






 辺りに薄紫のスパークが走る。


 メールという形式で集めた王都中の人々の思いを、テレパシーの魔法で風の絶対者に送信したのだ。




 「メッセージを受け取ろう。しかし大した収穫は無かったな、久々の人間界だったのに期待外れだよ全く。ささっと契約通りこの王都を君ごと滅ぼして帰———うっごっごごごごごこごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっごごっごっがっあっっっ———ッ! 」




 絶対者が頭上で断末魔を上げる。




 シュレイドのスマホに『メッセージを送信しました。』と表示された。








 「想いの力の勝利と呼ぶには、流石にゲロカス過ぎるよな……」




 上空で風の絶対者が苦しみ死ぬのをひとしきり眺めた後、少しため息をついてただ空を見つめた。




 だんだんと、その自由な広さを取り戻す空をただ、ただ見つめた。

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