29話 ネッグハント
「悪くない……いいよ、やろうじゃないか。」
処刑人は頬を高揚させながら頷いた。
「よし、じゃあ切ってくれ! 」
「遠過ぎて無理だ。どうにかして風の絶対者に接近しないと……」
そりゃそうか。
処刑人のギロチン大剣の間合いはどう大きく見積もっても3メートルそこそこ。
対して標的の絶対者は遥か上空、空でも飛ばないと届かない距離だ。
「ここはワタシに任せるです! 」
リィリィが鼻息荒く前に出た。
「なんとかできるのか! 」
「です、あのデカブツを空から引きずり落としてやるですです! 」
そうか、リィリィの相手の強さを重さにする固有魔法なら風の絶対者を落とせる!
「いやちょっと待て、あんなデカいのが落ちて来たら———」
「俺はいつでも行けるぞ! 」
処刑人が大剣を構えた。
ちょっ待っ———
「空を駆けるお前は、どうせ自らの重さなんて忘れているだろう? 故に思い出せ、大地の縛りを! 『第二裁定、チェーンオブ=ジ・オ』」
鎖が辺りの地面から無数に現れ、風の絶対者に向かって伸びてゆく。
それは絶対者の巨体に触手が這いずるかの様に絡み、縛った。
「———墜ちろですっ! 」
リィリィの声に鎖が応え、ギリギリと動き出す。
ミシミシミシミシミシミシミシミシミシ……
「鎖凄えミシミシ言ってますけど大丈夫ですの!? 」
「ちょっとやばいですですね……相手の重さも認識限界超えてますし、飛ぶ力も同じ———はっきり言って絶対者ヤバいですです。」
リィリィの額に汗が滲む。
見るからにキツそうだ……
辺りに暗い雰囲気が漂った。
クソっ……これも駄目なのか……?
「諦めるな! 」
突然処刑人が叫んだ。
お前かよ!
「俺は切りたいぞ、絶対者の首を! だから頑張れちっこいのおおおおおおおおおお! 」
応援する処刑人の姿を見たからだろうか、セレーネも……
「リィリィも凄いですわよおおおおおおおおおおおおおおお! 」
通りかかった一般ケガ人も
「うおおおおおおお頑張ってくれ嬢ちゃんんんんんんんんんんんんん! 」
「皆んな……シュレイドさんも……」
リィリィのか細い声が聞こえてしまった。
やっぱ俺もなんか言わなきゃいけない流れか……?
なんか、なんか言わなきゃ……
言わな……
「イワナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! 」
イワナってなんだよ……咄嗟に思ってもない事を言ってしまった。
「ぶくっ、イワナってwww……」
頭上から響く声、絶対者にも聞こえてたのかよ……
ああ恥ずかしい……
「絶対者の抵抗が切れた! 今なら落とせるです! りゃあ! 」
空飛ぶ巨大が今度こそ落ちてくる。
そのあまりの巨大に遠近感が狂うけど、実際は超スピードだ。
「ああもうこれで行っちゃうのかよ! もういいや、処刑人! チャンスは一瞬だぞ! 」
「心得ている! ああ……楽しみだ……」
ギロチン大剣を構え、その恍惚とした視線は絶対者の首にのみ注がれている。
落ちる絶対者、待ち構える処刑人。
落ち続ける絶対者、待ち続ける処刑人。
全てを決める一瞬の為の待ち時間は、あまりに長い———
太陽が絶対者の巨大で隠れた刹那、処刑人が動いた。
「俺の最高傑作を更新してやるぜえええええええええええええ! 」
飛び上がり、空中で体を限界まで剃らせて"タメ"を作る。
限界まで縮めたバネが解放と共に爆発するかの様に、処刑人はタメを解放した。
剣線は絶対者の首を捉えた。
ギロチン大剣がそれの何十倍の大きさの首を裂いてゆく。
血の一滴も出させず、繋がっていたものを切り分ける。
中空で起こるそれを目にしたものは理解しただろう。
彼の謳う芸術、理想、傑作、夢……
「いって……痛えよっ! 」
ばしゅん。
……は?
首を半ばまで切られた絶対者。
突き刺さったままのギロチン大剣。
遥か地平の果てまで吹っ飛ぶ人型。
処刑人が首を切ってる途中に吹っ飛ばされたのだ。
「首を切られながら、いや、どこにどう居ても風を当てられる……? 」
く、クソ技じゃねーか!
予備動作無し、即死、リーチ自在。
これをクソ技と呼ばず何と言うのだろうか。
絶望だった。
俺のコキュートスより冷えっ冷え、お通夜ムードどころかハルマゲドンムード。
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