28話 無名魔法と運命の分かれ目
勇者の腕に左手で触れながら、俺は名前の無い魔法を発動する。
「我は否定に在らず、我は肯定に在らず。存在はたゆたい、弛みと隙間を自覚せず。ならばカタチなど不確か———故に我は絶対者的手腕を持って、確かなカタチを取り繕う! 」
詠唱<コマンド>により、魔法が機能する。
情報が頭に流れ込む。
『負傷勝利傷傷癒やし傷安らぎ埃水→血回復握手↓魔法火鋭利裂傷回復圧迫↘勝利拳打撲打撲傷傷癒やし傷傷傷埃裂傷痛み痛み痛み痛み打撲回復回復P水傷裂傷血痛み鋭利回復↓氷熱痛み回復回復圧迫火傷↘︎傷打撲回復回復水→負傷埃打撲血血回復回復P鋭利裂傷裂傷治癒血xxxxxxx……』
勇者の腕の情報……?が脳に入り込む。
勇者の腕の全ての事象、その中から腕が千切れた後を探し、『今この腕はセレーネと繋がっている』と事象を書き足してこの腕の事実を改竄———セレーネとくっ付けるって寸法だ。
しかしシュレイドの頭脳はあまり良くは無い。
閃きはあるにはあるが、処理能力には対して優れておらず、今尚頭に流れ込む圧倒的な情報量を前に焼き切れそうであった。
くっ、頭が……痛え……
何も考えられない……
「でも、それで構わねぇ。見つけて、書き足す。俺がやるのはそれだけの事だ……」
うわ言の様に呟く。
思考を単純化する。
『負傷勝利傷傷癒やし傷安らぎ埃水→血回復握手↓魔法火鋭利裂傷回復圧迫↘勝利拳打撲打撲傷傷癒やし傷傷傷埃裂傷痛み痛み痛み痛み打撲回復回復P水傷裂傷血痛み鋭利回復↓氷熱痛み回復回復圧迫火傷↘︎傷打撲回復回復水→負傷埃打撲血血回復回復P鋭利裂傷裂傷治癒血xxxxxxx……』
そして———
『負傷勝利傷安らぎ埃水→血回復握手↓魔法火鋭利裂傷回復圧迫↘勝利拳打撲傷埃裂傷痛み痛み痛み痛み打撲回復回復P水傷裂傷負傷勝利傷傷癒やし傷安らぎ埃水→血回復握手↓魔法火鋭利裂傷回復圧迫↘勝利拳打撲打撲傷傷癒やし傷傷傷埃裂傷痛み痛み痛み痛み打撲回復回復P水傷裂傷血痛み鋭利回復↓氷熱痛み回復回復圧迫火傷↘︎傷打撲回復回復水→負傷埃打撲血血回復回復P鋭利裂傷裂傷治癒血裂傷裂傷爆破鋭利傷傷———切断』
「ここだあああああああああああああ! 」
鋭利裂傷裂傷治癒血裂傷裂傷爆破鋭利傷傷———切断『今この腕はセレーネと繋がっている』』
事象を書き足した。
シュレイドが顔を上げると、一瞬目眩の様に世界が揺らぎ、俺の腕には右腕が付いているセレーネが抱き抱えられていた。
「セレーネっ! 」
「ん、うう……なんですの? 」
セレーネは昼寝から目覚めるかの様にゆっくりと瞳を開いた。
その紺碧の瞳に映るシュレイドの顔を見て、自分が相当焦っていた事に気付く。
「ねぇ、シュレイド……私そろそろあの時保留にされた質問の答えを聞きたいですわ……」
まだ目覚め切ってない虚な瞳でこちらを見てくる。
その顔を見て思い出した。
そうだ、俺はコイツを解放して、あの時の答えを言ってやりたかったんだった……
「あー、なんだ。あん時は照れ臭くて言えなかったけど、俺、お前の事は、死線を共に乗り越えた、大切な仲間だと思ってる、ぞ……」
そう言うと、セレーネはふふっと花が咲いたみたいに嬉しそうに笑った。
「やりやがったんですねシュレイドさん! セレーネの腕が治ってる! 」
リィリィがぴょんぴょん跳ねて寄ってくる。
コイツ……切り札がーとか言ってた癖に、セレーネの腕が回復して喜んでやがるな……
「何言ってんだリィリィ、セレーネの腕は"元々"こうだったろ? 」
「そうですわよ! この腕は元々私のモンですわ! 」
それを聞いてリィリィは「そうですですたね! 」ニコッと笑った。
ですですたねって語呂わっる……
「さてセレーネ、早速で悪いがその腕で処刑人を解凍してくれ! 」
「奴が襲いかかって来た時は頼みますわよ……」
セレーネに俺は「任せろ! 」と親指を立てて答えた。
セレーネは唾をごくりと飲んで、覚悟を決めた。
右手を前に突き出し、巻かれていた布を解いて手のひらを露出させる。
「カースドパニッシャーですわ! 」
と、氷像に触れる。
氷像は触れられた先からガラスが砕ける様に弾けて、中から処刑人が出てきた。
「うぇぇ、冷たかったぞ……」
「確保ーーー! 」
出て来たばかりの処刑人を有無を言わせず押し倒す。
「処刑人、お前にはセレーネじゃなく別のすげー首を切ってもらうぞ! 」
そう言うと処刑人は「首を! 」と一瞬目を輝かせるも、
「俺あの悪役令嬢の首切りたいんだけど……」
と肩を落とす。
「まぁ上を見てみろよ。」
「上? 」
処刑人が気怠げに顔を上げる。
当然上にはバカデカい風の絶対者が居る訳で……
「あれ……何だ?……」
「風の絶対者だ」
「俺が凍ってる間に何があったんだよ!? 」
「なんかいきなりあれが出てきてめっちゃ凄い風吹かせまくってきて大変なんだよ」
処刑人はそんな凄い事あるか? なんて疑問を持った顔になるが、風の絶対者をじっと見て、
「いやしかしあれ程大きい首を切れる機会もなかなかないよな……」
と葛藤する。
「ここでお前が頷けばアイツの首切るの協力してやるぜ。頷かなかったらまた氷付けな。」
交渉など無い。やれ。
「悪くない……いいよ、やろうじゃないか。」
その返事を以って、絶対者の首切る切る同盟は結ばれたのだった。
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