27話 手腕肩頭肩
「意外と早く着いたですわね。」
「まぁ、絶対者の攻撃に直撃して即死か当たらないかの0か1みたいな話だからな。」
氷の彫像を見る。
内の処刑人は尚も瞳に炎を宿しており、氷を溶かした途端襲い掛かってきそうな迫力があった。
「お前ら、一応離れとけよ。」
「シュレイドさんの魔法に近づくなんて冗談でもごめんですです。」
「右に同じですわ。」
セレーネとリィリィは既に屋根の端っこまで避難していた。
……落ちるなよ。
「さて、それじゃあ解凍するか。ゴーズフレアっ! 」
煉獄を写したかの様な業火が氷像を焼く。
しかし、氷像は一行に溶ける気配が無かった。
むむっ、流石は俺の氷魔法だ。
咄嗟に凍らせたからただでさえ効かない加減が余計に効かなかったのだろう。
氷像は堅牢な牢獄の様にピクリともしない。
5分ぐらいゴーズフレアを続けてやっと氷像の表面に水滴が滲んできた。
こりゃ結構時間掛かるなぁ……
「シュレイドっ! 」
ドンっ!
唐突に突き飛ばされた。
「な、なんだぁ!? 」
ブウォン!
見ると、そこには右腕を失ったセレーネが居た。
解凍に夢中になっていて、風の絶対者の攻撃に気が付かなかった。
そんな俺を、セレーネが庇ったらしい。
セレーネの右腕は鋭利に切り裂かれており、そして繋がっているべき腕の先を目指すかのように、命の雫がぽたぽたと溢れていた。
「セレーネ、なん———? 」
なんで、と聞こうとして言葉が詰まる。
以前にも似た様な事があって、その時セレーネは『今助けなきゃ貴方が死んだ後、私も簡単に殺されると思っただけですわ! 』と言った。
同じだ。
同じなんだ。
なら俺が言うべきこともやるべき事も分かってる。
「セレーネ、三人で必ず生き延びるからっ、だから……もうちょっとだけ死なずに居てくれっ……」
そう言うとセレーネは額に油汗を滲ませて、限界ギリギリの表情で、それでも笑った。
セレーネは命懸けで俺が勝つ事に賭けてくれた。
だから絶対に応えなければならない。
セレーネに応える為にはゴーズフレアじゃダメだ。
解凍に時間が掛かり過ぎる。
だから別の手を思い付かなければならない。
ゴーズフレアの手を止めずに考える。
何か……手は……
手?
そうだ!
「リィリィ! 」
「はひゅっ! 何です? 」
まさか自分に声が掛かるとは思ってなかったリィリィが変な声を漏らす。
構ってる余裕は無い。
さっさと本題を言う。
「ドラオス戦後にお前が回収した勇者の腕……出せ! 」
「カースドパニッシャーを? でもあれは……」
「あれをセレーネに移植して氷像を解凍する! 」
異世界転生してすぐに苦しめられたあの腕は、攻撃の意思に反応してそれを破壊する性質だと聞いた。
ならば、処刑人に対して攻撃の意思を持って発動した俺のコキュートスも無効化できる筈だ。
リィリィも俺の考えを察してか、ちょっと嫌そうな顔をしながらも、懐から赤い布に巻かれた勇者の腕を取り出した。
俺はそれを引ったくる様に奪い取ると、セレーネに向き直った。
「ああ……ワタシがシュレイドさんと喧嘩した時の切り札が……ゲートといいこれといい、ワタシの手札が減っていく……」
リィリィの嘆きは聞かなかった事にしよう。
「よし、それじゃあ治癒魔法で……いや、元の腕とくっつけるならともかく完全に独立した勇者の腕とくっつけなきゃいけない今ならば……」
『魔王スキル』の中でも魔法には格差がある。
ヴォルカニックスピア、物理防御、魔法防御、ゴーズフレア、コキュートスなど魔王スキルを持ってすればノーリスクでバンバン使えるものと、
×××や、○○○の様な、魔王スキルを持ってしてもノーリスクとはいかないもの、多大なリスクを要求されるものがそうだ。
これからするのは事実の改竄、世界の書き換え、の様な魔法だ。
史上でも使われた形式があまりにも少なく、名前すら存在しないそれだが、それならばこそ、腕が吹っ飛んだセレーネに、別人の独立した腕である勇者の腕をくっつける事も可能だろう。
「シュレイドさん、カースド———勇者の腕に巻かれている布は包んだものの効力を隔絶させる低級の秘宝ですです。もし勇者の腕に何かするなら必要最低限の場所だけ布を解いて下さいです。」
「分かった! 」
勇者の腕の手とは反対の部分、セレーネにくっ付ける切断面を露出させる。
右腕を失ったセレーネが、俺の腕の中で弱々しく胸を上下するのを感じた。
もう少しだけ待っててくれよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます