26話 ヤケクソ反撃スモーク


 圧倒的暴風、風、風、風。




 俺達三人は風の絶対者が目に塵が入ったとかで注意が逸れた一瞬、馬車に乗り込んで逃げていた。




 最も風の絶対者が大きすぎて距離感が掴めず、とても逃げれている感じはしないが。




 「とりあえず建物が少ない方を目指すです! 風が直撃したら潰れるのは明白だとして、風の余波で崩れた瓦礫の下敷きになるのぐらいは回避できるです! 」




 「……」




 「ですわね。風の絶対者サンの目的もわかってないですし」




 「……」




 「ええ、何故風の絶対者が現れたのか。ここら辺をハッキリされられれば何か糸口を掴める筈ですです。」




 糸口……糸……




 「———見えた。」




 「ひゃっ! いきなりなんですですシュレイドさん! 」




 「もしかしたら、アイツ倒せるかもしれねぇ。」




 「は? 寝言は寝て言えですよ」




 「どんな奴の首でも切れる奴が居るんだ……」




 「もしかして……アイツですわね! 」




 その時その場に居たセレーネの声が上がる。




 一方その時その場所に居なかったリィリィははてな顔だ。




 「天空王国四天王の処刑人。アイツは俺の超高レベルの物理防御魔法を超えて俺を切った。」




 俺の頬の傷を指差すと、リィリィが何か納得した様に真剣になる。




 「切られた俺だから分かる、処刑人は俺の物理防御魔法に真正面からぶつかるでなく……そう、裏口的に乗り越えた。」




 「まさか、固有魔法です……? 」




 「多分そうだと思う、アイツの武器は明らかに普通の鉄製だったし。」




 「いけますわいけますわー! 」




 「だろ? これ超すげーアイディアじゃね? 」




 セレーネと盛り上がっていると、リィリィが純粋な疑問を投げてきた。




 「でも、処刑人っ天空四天王ですですよね。それって敵って事じゃないです? 」




 なんだ、そんな事か。




 「それなら問題ない、ちょっと話をしただけだけど、アイツなら『デカい首が切れるぞ』って誘えばホイホイ付いてくる。」




 「ですわね。」




 「どんな奴なんですかソイツ……ワタシはちらっと見ただけですですけど。なんかセレーネとシュレイドさんだけで通じ合ってるのムカつくです! 」




 ムキーとリィリィ。


 スルーで。




 「つまり処刑人に風の絶対者を切ってもらおう作戦だ! 」


 「ですわーーー! 」


 「もうどうにでもなりやがれです」








 「と、意気込んだはいいものの、処刑人、俺のコキュートスで凍らせちゃってたんだった…… 」




 「あ! 」




 「やっぱこいつらクソバカ! やっぱこいつらクソバカですです! 」




 ちゃんちゃん。








 まぁゴーズフレアかなんかを当てられれば氷は溶けるだろうという事で、作戦は始まった。




 まずはあの屋根の上に戻る。


 その為には風の絶対者の無差別攻撃を掻い潜る必要がある。




 「無差別攻撃のパターンを調べるぞ! 」




 「とうやって調べるです? 」




 「セレーネ、風が起こった場所が見えたら、風が起こる毎に場所の方向を教えてくれ」




 「了解ですわ! 」




 「なるほど、それである程度当たりを付けるんですね! 」




 「ああ、最も無差別攻撃は適当だろうから、あくまでも比較的安全な場所を絞り込める程度だろうけどな。」




 「任せんしゃいですわ! 」




 右、左、前、前、左左左、奥、右右、前、左左左左、右、右、左左……




 案の定安全なルートは無いが、比較的前と奥が少ない。




 「これは……」




 「結局真っ直ぐ最速で突っ切るのが一番安全そうだな、」




 結局運ゲーかよ、ぺっ!








 瓦礫だらけの王都を一台の馬車が突っ切る。


 その素早さ、疾風の如し。




 「うおおおおおおおおおお! 急げええええええええええ! 」




 「オラオラもっと早く疾走りやがれですです! 」




 「心臓ばっくばくですわ! 」




 ドォン!




 シュレイド達の馬車が走る近くに風の絶対者の攻撃が当たった。


 石の様な素材でできた建物が、豆腐の様に砕かれる。


 けれどもそれで飛び散った破片が豆腐の様に柔らかい筈も無く———




 「ぎゃーーー、こっちに破片が飛んで来ましたわーーー! 」




 「このぐらいならっ! ハリケーンウインド! 」




 シュレイドの放った風魔法が瓦礫を遥か彼方へ吹っ飛ばす。








 こうして何度かの危険を乗り越えて、なんとか一行は処刑人の氷漬けがある屋根の上まで辿り着いたのだった。


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