14話 白き王都にて


 3日後……




 「ここがセレーネが公開処刑される中央公園か……」




 その名の通り王都の中央辺りにある中央公園は、その周りだけ背の高い建物が少なく、青々とした空が覗ける。


 とてもこれから公開処刑が行われるとは思えない爽やかさだ、中央に置かれた斬頭台を除けばだが。




 ちらほらと人が集まり始めている。


 公開処刑まであと半刻程だ。




 「ホントに上手くいくんです? 」




 リィリィも緊張して心なしか瞬きが多い。


 俺も拳に力が入る。




 「大丈夫だ、これだけ広けりゃ俺の魔法も思う存分使えるからな。」




 「あんまいい予感しねーですですけどね……」




 とか言ってると、辺りの人々がざわつき始めた。




 「おお、天空王国四天王の"処刑人"様がいらっしゃったぞぉ! 」




 天空王国四天王、いかにもヤバそうな肩書きだ。


 それに処刑人って……




 「あ、あれじゃないです? 」




 リィリィが指さした方を見ると、細身で2メートル近い長身の男が居た。


 背中にはギロチンに無理矢理持ち手を付けた様な不恰好な大剣を背負っている。




 奴が例の処刑人か……


 見るからに強そうだ。






 そしてそれから十数分後、手錠をつけられたセレーネが兵士達によって運ばれてきた。


 初めて会った時に来ていた赤いボロドレスはどこへやら、今はみすぼらしく汚れた白いワンピースの様な服を着ている。




 「リィリィ! 」


 「作戦開始ですですね! 」




 近くで一番背の高い建物に、全力でヴォルカニックスピアを放つ!


 炎槍は激しい音を立てて建物を破壊! 民衆の目はそっちへ釘付けになる。




 その隙に俺はセレーネとの距離を一瞬で詰めた。




 リィリィは混乱に乗じて逃走用の馬車をパクる手筈なので、もう中央公園にはいない。




 俺はセレーネを連れてきた兵士達に突撃した。




 「な、何奴っ———」




 兵士が何か言うが、待たずにキックで黙らせる。




 「セレーネ! 無事か!? 」


 「もう、助けに来るのが遅いですわよ! 」




 「軽口叩けるぐらいには無事の様だな、うっし、そんじゃずらかるぜ! 」




 「ええ、こんなクソ王都とは今度こそおさらばですわ! 」




 俺はセレーネを抱き抱えて大ジャンプで離脱した。


 流れていく景色すら満足に見れない程の超スピードジャンプだ、誰も追いつけまい……








 「待てええええええええ! 」




 「なっ、あれは天空四天王の処刑人! このスピードに付いてこれるんですの!? 」




振り返ると、あの処刑人が屋根を蹴って加速しながら接近してくるのが見えた。




 「久しぶりに良い首を切るチャンスなんだ! もう少しで俺は何かを掴める……この機会、逃してなるものかぁああああああああああ! 」




 正気を疑う言動が聞こえた。


 うぅ、相手にしたくないな……




 俺は空中で空気を蹴って更に加速した。




 が、天空四天王の処刑人、なんたる執念だろうか……ここまでやっても距離が離れない。




 「クソっ、追いつかれるっ…… 」




橙の屋根に飛び移った時、ガシャリともう一つの音。


 追いつかれたか……




 「やっと追い詰めたぜ! 悪役令嬢セレーネ、お前で俺の最高傑作を更新してやる! 」




 「さ、最悪の誘い文句ですわ! やっちゃいなさいシュレイド! 」




 「ああ、流石にこれに追われてるのは同情するぜ。」




 かわいそう。


 仲間じゃなかったら絶対見捨ててたぜ。




 けどこのお嬢様は俺の命の恩人で、仲間で、何より俺の凡ミスで死地に追い込んでしまった負い目がある。




 嫌だ、嫌だけど、ここでは勇気を出さなきゃならねぇ。




 「あ〜、非常に不本意なんだが、処刑人、ここでお前を倒す! 」




 指を突き付けて言ってやった。




 すると、処刑人は思わぬ行動に出る。




 「待ってくれ、銀髪の男よ! その悪役令嬢の知り合いだと言うならば、見たことがある筈だ、その女の美しいうなじを! 」




 は?




 「俺、人の首を切るのが好きで、生きがいなんだ! どんどん上手く切れる様になって、でも最近スランプ気味でさ、そんな時そいつのうなじを見たんだ! そこで俺は思い付いた! 何をって? そりゃ最高の首切りさ! それしかねぇ、最近技術が上達しなくなったのは最高の技術に至ったからだったんだ、ならそれ以上を目指すには……そう! 首だ、最高の首! 最高の技術と最高の首があれば、超最高の首切りができる! 約束する、決して失敗しない。だからその女をこっちに寄越してくれないか? 」




 瞳を輝かせて処刑人が力説する。




 シュレイドはその姿に眩暈の様な感覚を覚えた。




 額に汗を滲ませ、握り拳を作るその姿はどこか燃え輝いて見えて———昔の自分を、好きな事に全力だったあの頃を思い出した。




 「夢中になれることがあるっていいよな……俺はどんな事にも中途半端で、一番熱中した格ゲーも、結局ランキング500位越えられなかったっけ……」




 「格ゲー? ランキング? 」




 「ああ、なんでもねぇよ……じゃあまぁ、やろうか。」




俺がファイテングポーズを取ったのを見て、処刑人が肩を落とす。




 「残念だ、何となく君には分かってもらえる気がしたのに……」




 ……


 確かに、俺にはこいつに少しだけ共感出来なくもない所があったりなかったりする。


 だが———




 「へっ! 知るかァ!」




 切り捨てる様に吐き捨てた。




 「ああ、動く相手は上手に切り辛くて嫌だな……」




 処刑人もやる気になった様だ。




 「シュレイド……」




 分かり合えない二人を見て、セレーネは呟くのみだった。




 そんな言葉も風に消えた頃、男達の戦いの幕が上がる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る